心療内科学講座は2000年に単独講座として開講、関西医大では比較的若い講座です。初代中井吉英教授のあと、前任の福永幹彦教授が引き継がれ、2022年より私が第三代教授に就任いたしました。
心療内科学とは内科系講座の一つであり、内科疾患のうちストレスなどの心理社会的な因子が濃厚に関与する病態を対象に、診療、研究、教育を行います。対象となる病態は臓器別ではないので、幅広く内科疾患が対象になります。本講座では、同様なアプローチを行う総合診療科(講座内診療科)、緩和ケアセンター(センター長兼務、専従医派遣)と連携しています。全人的医療である、心療内科、総合診療科、緩和医療、すべてを実践している世界唯一の講座として、その中身が充実するように臨床、教育、研究ともに発展させていきたいと考えています。
世の中には、診断治療が難しい疾患が溢れており、つらい思いをされている患者・家族は多くいらっしゃいます。心療内科では、治療プロトコールが限られている疾患を診ることが多く、疾患ベースだけではなく、病態ベースでも診療を行います。例えば、痛みが長く続く病態に慢性疼痛があります。何らかの器質的要因のある疾患以外に、身体・行動の機能的要因、心理社会的要因、実存的要因が重なって、複雑な病態を形成していることがあります。心療内科医は、それらを整理しながら複雑な病態を紐解いていきます。その際には、痛みの背景にある根本のつらさや生き方、時には病気の意味とも向き合っていきます。そのためには、医療以外にも、社会学、実存学、教育学、哲学、文学などの知識も必要となり、このような幅広い視野をもって診療に当たれる医師、マインドのある心理士、看護師が多職種連携をしていることが心療内科の特徴です。
初代の中井吉英先生の大好きな人物の一人が良寛さんです。中でも良寛と貞心尼の晩年の恋について、しばしば熱心に語っておられました。恋もですが、良寛は村の子供たちと一緒になり、子供のように遊ぶのを楽しんだと伝えられています。私はこの「あそび」という言葉に強く惹かれます。「あそび」をどのように解釈するか、それは個々人の自由です。含みの多い言葉で、構造物のわずかの隙間も「あそび」と言います。その「あそび」は、少しだけ自由に動けることで構造全体のしなりを引き出し、大きなゆがみに耐えることができるようにします。我々の講座もしなやかに楽しく、そして、病院、大学を、また医療全体のしなりを引き出す存在でありたいと思います。