研究・業績

Research & Record

研究テーマ

  1. 機能性身体症候群における精神生理学的評価と心理的評価を用いた病態の検討
    機能性身体疾患における複数の評価軸からの病態検討の包括的なテーマ。
  2. 疼痛閾値と内受容感覚の関係についての検討
    脳科学では内受容感覚の機序が明らかになりつつある。機能性身体疾患や慢性疼痛患者における症状閾値、病的な感覚と、健康を維持する内受容感覚の関係性について検討している。
  3. 機能性身体症候群における心拍変動のストレス反応の特徴
    機能性身体症候群では自律神経機能の異常があるとされるが、安静時だけでなくストレス負荷時にその異常がより明らかになる。その反応の特徴を検討している。
  4. 慢性疼痛症候群における疼痛閾値と心理、人格特性の検討
    慢性疼痛症候群は様々な因子が絡んで病態が複雑化しやすい。慢性疼痛症候群の特徴である疼痛閾値と、ミネソタ多面人格特性等による心理的特徴との関係について検討している。
  5. 身体活動の心理的効果、及び身体活動量の主観的評価についての心身医学的検討
    運動などの身体活動は情動や生理機能に大きな影響をもたらす。その機序や、主観的な運動の感覚との関係について検討している。
  6. 機能性身体症候群におけるストレスマーカーを用いた心身医学的病態の検討
    生理機能評価において、唾液アミラーゼは簡便なストレスマーカーとして有用性が示唆される。ストレスマーカーと心理特性の関係や、介入による変化を検討している。
  7. 機能性身体症候群における筋力調整課題とアシンメトリーについての検討
    機能性疾患群においては調整機能の低下に伴い、筋骨格系におけるアシンメトリー(左右不均整)が生じることが多いため、アシンメトリーと病態との関係について検討している。
  8. 会話分析を用いた、医療面接での患者と治療者のやりとりの研究
    面接語録をデータとして、その場で起こっていることを解明する手法である会話分析を用いて、医療面接中に生じる変化について検討している。
  9. 非線形数理モデルを用いた、心身症におけるストレス反応の探索的検討
    非線形ダイナミクスに基づく循環器システムの非線形数理モデルを構築し、そのストレス反応などのシミュレーションを行い、心身症におけるストレス反応の特徴を探索的に検討している。

心身医学の臨床研究

心療内科学の過去、現在、未来

 心身医学の臨床研究では、「心身症」を対象として、多岐に渡る検討が求められています。具体的には、消化管運動機能など各疾患別病態の評価、自律神経系や内分泌系など中枢と末梢をつなぐシステムに関する検討、心理社会的因子の検討、心身相関の評価、治療者-患者関係の評価、心身医学的治療の効果の評価などが挙げられます。
 特に、心身相関は他分野の研究では見られない、心身医学特有の重要なテーマです。しかし、心身医学の研究には次のような独自の困難性があるために、立ち遅れているのが現状です。

  1. 1)対象である「心身症」が多様な疾患群であり、研究の対象として扱うことが容易でない。
  2. 2)一般の医学的検査で評価が困難であり、定量的にとらえにくい事象が多い。
  3. 3)多要因で複雑な系であり、評価が難しい。
  4. 4)自覚的(主観的)評価が重要であるが、客観的評価に比べて扱いが難しい。

 このような困難性や課題を踏まえ、当科では以下のような疾患において、研究の取組みをしています。解析手法として、一般的な解析に加えて、多変量解析、質的研究、複雑系の手法などを試みています。
 測定については、機能性疾患の病態を捉えるためにいくつかの手法を用いています。上部消化管ビデオ透視、食道内圧pHモニタリング、心拍変動測定、定量的感覚検査、精神生理学的ストレスプロファイル(PSP)、バイオフィードバック、唾液中コルチゾール・アミラーゼなどです。
 一方、心理的・認知的状態をとらえる方法として、質問紙や投影法などの心理テスト、WAIS(知能検査)、Visual Analogue Scaleを用いた症状の程度・痛み・辛さなどの主観的スケーリング法などを用いています。
 「主観的な情報を客観化した時点でもはや主観でなくなる。しかし、客観化しないと研究にならない。」という本質的なジレンマがあり、心身医学の研究は困難な道ですが、1つ1つ地道に検証していくことが近道と考え、日夜研究を進めています。

研究対象

機能性身体症候群(Functional somatic syndrome; FSS )

 「心身症」は病態であって疾患名でないため、すべてを対象とするとばらつきが多すぎる、という問題があります。また、海外論文に投稿する場合、「心身症」を説明するだけで1 つの論文になってしまいます。そのため、心身症と類似した病態を示す、FSS という近年欧米で注目されてきている概念を取り入れています。
 FSS は、「症状や訴え、障害の程度が、認識できる組織障害の程度に比して大きいという特徴をもつ症候群」と定義され、医学的検査で症状に見合った異常が見つからず、器質的よりも機能的な異常が表れる疾患群を指します。その中には、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群、線維筋痛症、慢性疲労症候群などが含まれます。
 FSS は各分野にまたがり、通常の医学的治療が奏功しにくい、治療関係がこじれやすい、無用な検査等による医療経済的損失、医療機関をワンダリングする、などの共通の問題が大きく、病態の解明が求められています。

慢性疼痛症候群

 慢性疼痛は、3カ月間以上の持続または再発、急性組織損傷の回復後1カ月以上の持続,あるいは治癒しない病変の随伴がみられる疼痛と定義され、生活の支障をきたすような痛みが続く状態です。急性の痛みは、外傷など組織損傷を認め、原因―結果がはっきりした痛みで、身体への障害の警告の意味がありますが、慢性の痛みは、原因が治癒したにも関わらず痛みがある、鎮痛剤やブロック療法で期待した効果があらわれない痛みなど、’total pain’としての様相を呈します。
 慢性疼痛は単に生物学的要因だけでなく、心理・社会・環境・行動などの要因も関係しながら病態を形成していきます。また、慢性疼痛ではしばしば自律神経機能異常やうつ状態も伴います。
 慢性疼痛の治療は困難で、痛みそのものに焦点を当てず、痛みを持ち悩み苦しむ個々の患者さんに焦点を当てることで、その病態と治療法が明らかになります。アプローチの課題として、慢性疼痛化の予測因子や予防因子の研究が求められています。

機能性消化管障害(FGIDs)

 胃もたれ、胃の痛み、腹痛など、消化管に由来すると考えられる症状が長期に渡り、その原因が一般的な検査では確認できない病態のことを機能性消化管障害と言われます。症状の表れる部位によって、胃食道逆流症、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群などと呼ばれます。病因として、胃酸過多、消化吸収の低下などがわかっており、これらはストレスや生活習慣との関連が考えられています。胃腸は自律神経系の働きと密接に関わっているため、ストレスによって自律神経が乱れ、それが胃腸の働きに影響を与えることが考えられます。
 機能性ディスペプシアの消化管運動機能異常として代表的なものに、胃排出遅延、適応性弛緩不全、内臓知覚過敏などが挙げられます。当教室では、機能性ディスペプシアにおける胃蠕動運動と自律神経機能の関連を検討しています。