関西医科大学 上部消化管外科学講座
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食道~治療方法~

食道がんの治療

食道がんの治療法は、①食道がんの進行度、②内臓の元気さ、③心身の元気さ

を総合評価したうえで、決定します。

 

①食道がんの進行度

進行度は、

☆がんの大きさ(広がり):T

☆転移(リンパ節:N・内臓:M)の有無や程度

で決定される、

がんの進み具合の指標です。

 

②内臓の元気さ

手術だけでなく、抗がん剤や放射線治療も体にダメージを与えます。それらに耐えうる内臓機能があるのかを評価します

食道がんの患者さんは飲酒・喫煙者が多く、また高齢な方が中心です。治療前には十分な内臓機能を備えているのかを評価することが極めて重要です。

検査の種類

循環器:心電図検査、動脈硬化検査

呼吸器:肺活量検査、胸部レントゲン、動脈血液ガス検査

肝臓・腎臓・糖尿病など:血液検査

 

③心身の元気さ

内臓機能とともに、とても重要なのが“心身の元気さ”です。

・日常生活は自立して行えているか(食事、入浴、トイレ動作、着替え、階段の上り下りなど)

・社会生活は自立して行えているか(電話、買い物、掃除、お金の管理、交通機関の利用など)

また、認知機能や気力、家族や友人などの支えはあるのか。

検査の種類

問診、アンケート調査、筋力測定、状況により専門医による診察

治療方針の決定

進行度と元気さを考慮して、合同カンファレンス(上部消化管外科、消化器内科、がんセンター、放射線科)で最適と思われる治療方針の検討を行います

そのうえで、患者さん・家族とともに、病状の説明を行い、検討結果も踏まえた治療方針の説明・相談の上、治療方針を決定します。

進行度別の大まかな流れについて説明します。

※下線部の治療の流れがガイドラインに示す標準治療になります。

ほとんどの進行度において、外科治療や化学療法、放射線療法を組み合わせて行う「集学的治療」が食道がん治療の特徴です。

Q. 治療期間は?

進行度1では、手術の場合約2週間の入院です。化学放射線療法の場合は、治療期間は1カ月半程度になりますが、放射線治療のみの時には外来での治療も可能です。


進行度2,3では、およそ2カ月間の化学療法ののち、外科手術(入院期間約2週間)を行い、約3カ月間の治療になります。

進行度4Aでは、およそ1カ月強の放射線治療とその後1か月程度の休薬ののち、追加治療を行います。外科治療の場合はおよそ2週間プラスして3カ月程度となります。追加治療が化学療法の場合には、その後数カ月間の治療に及ぶことが少なくありません。

進行度4Bでは、治療効果と体力のバランスをみて、化学療法による全身治療を継続していくことになります。初回治療は入院で行いますが、2回目以降は外来で治療を続けていきます。全身への転移に伴う全身状態の悪化の状態での過剰な化学療法はむしろ生命予後を短くすることもありますので、主治医や緩和治療医などとよく相談して、治療の継続を考慮します。

以前は進行度4Bでは半年から1年程度の予後と言われてきましたが、近年免疫治療の効果が明らかになり、年の単位で元気に過ごせる方が増えてきております。

 

 

食道がんの治療:手術治療

食道がんの手術には、大きく分けて胸部食道がんの手術(食道亜全摘)と頸部食道がん(頸部食道切除)の2種類があります。

胸部食道がんに対する手術

胸部にできた食道がんは首(頸部)から胸の中(胸部)、おなか(腹部)の広い範囲のリンパ節に転移を起こします。したがって、手術ではそれらをすべて取り去ってしまう(切除)ことが重要となります。

以前は胸やおなかに20-30cmほどの大きな創を開けて(開胸、開腹)、がん部を切除する、体に大きな負担のかかる手術でした。大きなダメージを少しでも軽減するために、現在当院で標準的に行っているのが、胸腔鏡・腹腔鏡やロボット支援下での食道がん手術です。

この手術は体の創を最小限にして手術の負担、術後の痛みを軽減することができます。さらに、大きく映し出された鮮明な映像(4K、3Dカメラ)を元に手術を行うため、より精緻な手術が可能になります。

 

胸部食道がんの創

 

・右の胸~脇腹にかけて、5mm~10mm程度の創を6つあけて、胸の中にある食道とリンパ節を切除します。


・上腹部に6cm、その周りに5mm~10mm程度の創を5つあけて、おなかの中にあるリンパ節を切除し、胸の中で切除した食道とともに取り除きます。


・左右の頸部のリンパ節も同時に切除する場合には、頸部にU字の切開を、切除は不要な場合には左頸部に5cmほどの切開をいれ、リンパ節を切除します。

 

胸部食道がんの手術

 

食道が切除されると、食事の通り道がなくなってしまいます。そこで胃を細長く形成して、胃を管状(胃管)にします。胃管を頸部まで挙上して、残っている食道とつなぎなおし(再建)します。

 

頸部食道がんに対する手術

頸部食道がんのリンパ節転移は頸部の周囲に限局していることが多いので、手術で取る範囲は頸部にとどまりますが、頸部食道は咽頭や喉頭と連続しているため、がんの拡がりによっては喉頭を一緒に取らないといけない(声を失う)ことがあります。

手術のお話の前に頸部のしくみを少しだけ紹介します。図に示すように、口から入る食物は、のど(咽頭)を通って、食道に送り込まれます。一方、空気(息)も咽頭を流れていきますが、喉頭から気管に送り込まれます。食物と息の交通整理をしているのが喉頭になります。

 

頸部食道に限局している場合

図に示すように、食道のみを切除するだけでがんを取り除ける場合は喉頭を残すことができます。

 

がんが咽頭や喉頭に及んでいる場合

咽頭や喉頭にがんが広がっている場合は、喉頭を同時に切除しなくてはいけません。その時は息の通り道(気管)を切断してのどから体外に出すことになり、声が出せなくなります。
当院では、咽頭に癌が及んでいる場合や気管にもがんが浸潤しているような場合にも、喉頭を温存する術式を開発しております。 すべての場合に温存することはできませんが、喉頭の温存を希望される場合には、一度当科にご相談ください

 

ロボット支援食道がん手術

当院では胸部食道癌に対するロボット支援下食道がん手術を行っています。
現在、当院ではdaVinciとHinotoriの2種類のロボットが稼働しており、いずれのロボットでも食道がん手術を受けることが可能です。また、当院ではロボット支援手術における認定指導医が手術を行っており安全で低侵襲な手術を実践しています。