Q. 食道ってどんな内臓?
食道は咽頭と胃をつなぐ、
長さ約25cm、直径約3cmの筒状の臓器
外見で分かりやすいのは、
咽頭との境界は喉仏(のどぼとけ)直下
胃との境界はみぞおち
にあたります。
食道が担っている仕事は・・・
飲み込んだ食物を胃まで運ぶこと!
そして胃に入った食物の逆流を防ぐこと!
この二つが主な食道の仕事です
Q. 食道がんとは?
この食道にできた“がん”が食道がんと呼ばれます
Q. そもそも“ がん ”って何?
“がん”は一言でいうと、秩序なく無限に細胞が増殖してしまう病気です!
人間の体は、結構秩序よく構成されています。
例えば、
胃は胃酸や消化酵素を分泌して食べ物をかき混ぜながら消化します
肺は血液中の二酸化炭素と口や鼻から吸い込んだ空気中の酸素を交換します
体の中で一つの社会を形成して、秩序正しく役割と細胞数を調整しながら我々は生きています。
がんでは、細胞が増えるスイッチがonになり、秩序を守ろうとするスイッチがoffになります。
それによって、生命を維持することができなくなるのです。
食道がんの場合
がんの怖いところ①
食道の粘膜にできたがん細胞がどんどん大きく
⇓
食べ物の通り道が閉塞
周囲な内臓(心臓、肺、気管)を蝕んでしまう
⇓
栄養が取れない、周囲の臓器が機能できない
がんの怖いところ②
食道周囲のリンパ節や肺、肝臓など
全身に居場所を見つけて増殖する(転移)
⇓
生命の維持ができない
日本では食道がんに罹患する人は、年々少しずつ増加しており、2020年には約25,000人と言われております。一方死亡者数は横ばいから少しずつ減少傾向にあり、2020年は約11,000人となっています。
食道がんになるのは男性に多く、男性:女性の比率は5:1くらいと言われています。
国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)より引用
罹患者数、死亡者数の年次推移をみると、食道がん患者数は増えているものの、根治を得られる人の割合が増えてきているのが分かります。
食道がんの早期発見や治療の進歩によるもので、少しずつですが食道がんも治るがんの仲間入りしてきています。
食道がんの危険因子としては、以下の5つがよく知られています
中でも、飲酒は食道がんの一番の危険因子で、これは体質によっても危険度合いが変わります。
飲酒による食道がん発生のメカニズムについては、少しだけ詳しく説明いたします
お酒、いわゆるアルコール(エタノール)は体の中でお酢(酢酸)に分解され、最終的には水と二酸化炭素に変わって排泄されます。その途中の段階でアセトアルデヒドという物質が出来てきます。このアセトアルデヒドは実は『発がん物質』なんです。
お酒を飲むと、発がん物質が体内に発生するのです!
しかも、このアセトアルデヒドの分解の速度は体質で変わってきますが、
日本人の約4割は分解速度が遅く、発がん物質が体内を回っている時間が長いのです。これは生まれつき両親から受け継いだ遺伝なので、途中で変わることはありません。(毎日飲んでも強くなることはないのです)
この体質を正確に調べるためには遺伝子検査が必要にはなりますが、
おおよその体質はすぐに分かります!
ビールや酎ハイを1杯程度飲んだ後しばらくして顔が赤くなる人(フラッシャーと言います)!が分解するスピードが遅く、アセトアルデヒドが溜まりやすい人なのです
ここまでお話したのは、食道がんの中でも日本人に多いと言われてきたがん(扁平上皮がん)です。
実は、最近欧米人に多いと言われてきた食道がん(腺がん)が急速に増えてきています。これは食道と胃の境界線に生まれてくるがんで、
肥満・喫煙・逆流性食道炎(胃食道逆流症)が原因と考えられています。
食道がんはがんの進み具合によって、治療法や治りやすさなどが異なります。
どれくらいの大きさ(深く潜りこんでいる)か?
食道以外のリンパ節や内臓への転移はあるのか?あるのならどれくらいなのか?
これらを正確に診断することが最も重要です
そのための代表的な検査は、
食道がんの診断方法には一般に内視鏡検査があります。内視鏡で腫瘍を確認し、一部を生検して顕微鏡で検査することでがんの確定診断となります。
①内視鏡検査
それ以外には、がんの大きさやひろがり、転移を検索するために、CT検査、PET-CT検査を用いて、食道がんの進み具合を検査します。
②CT検査
正常の左図にはなかった影(リンパ節)が、
右図では黄色い〇印にかたまりとして見える(リンパ節転移)
白い〇印を見比べてみてください。
左図は薄い筒に見えます(正常)が、右図ではかたまりになって見えます(食道がん)
③PEY-CT検査
転移したリンパ節が黄色く光って写ります。
④MRI検査
CT画像に比べると、MRI画像は内臓それぞれの境界線がはっきりとわかります。
食道がんの治療法は、①食道がんの進行度、②内臓の元気さ、③心身の元気さ
を総合評価したうえで、決定します。
進行度は、
☆がんの大きさ(広がり):T
☆転移(リンパ節:N・内臓:M)の有無や程度
で決定される、
がんの進み具合の指標です。
手術だけでなく、抗がん剤や放射線治療も体にダメージを与えます。それらに耐えうる内臓機能があるのかを評価します
食道がんの患者さんは飲酒・喫煙者が多く、また高齢な方が中心です。治療前には十分な内臓機能を備えているのかを評価することが極めて重要です。
検査の種類
循環器:心電図検査、動脈硬化検査
呼吸器:肺活量検査、胸部レントゲン、動脈血液ガス検査
肝臓・腎臓・糖尿病など:血液検査
内臓機能とともに、とても重要なのが“心身の元気さ”です。
・日常生活は自立して行えているか(食事、入浴、トイレ動作、着替え、階段の上り下りなど)
・社会生活は自立して行えているか(電話、買い物、掃除、お金の管理、交通機関の利用など)
また、認知機能や気力、家族や友人などの支えはあるのか。
検査の種類
問診、アンケート調査、筋力測定、状況により専門医による診察
治療方針の決定
進行度と元気さを考慮して、合同カンファレンス(上部消化管外科、消化器内科、がんセンター、放射線科)で最適と思われる治療方針の検討を行います
そのうえで、患者さん・家族とともに、病状の説明を行い、検討結果も踏まえた治療方針の説明・相談の上、治療方針を決定します。
進行度別の大まかな流れについて説明します。
※下線部の治療の流れがガイドラインに示す標準治療になります。
ほとんどの進行度において、外科治療や化学療法、放射線療法を組み合わせて行う「集学的治療」が食道がん治療の特徴です。
Q. 治療期間は?
進行度1では、手術の場合約2週間の入院です。化学放射線療法の場合は、治療期間は1カ月半程度になりますが、放射線治療のみの時には外来での治療も可能です。
進行度2,3では、およそ2カ月間の化学療法ののち、外科手術(入院期間約2週間)を行い、約3カ月間の治療になります。
進行度4Aでは、およそ1カ月強の放射線治療とその後1か月程度の休薬ののち、追加治療を行います。外科治療の場合はおよそ2週間プラスして3カ月程度となります。追加治療が化学療法の場合には、その後数カ月間の治療に及ぶことが少なくありません。
進行度4Bでは、治療効果と体力のバランスをみて、化学療法による全身治療を継続していくことになります。初回治療は入院で行いますが、2回目以降は外来で治療を続けていきます。全身への転移に伴う全身状態の悪化の状態での過剰な化学療法はむしろ生命予後を短くすることもありますので、主治医や緩和治療医などとよく相談して、治療の継続を考慮します。
以前は進行度4Bでは半年から1年程度の予後と言われてきましたが、近年免疫治療の効果が明らかになり、年の単位で元気に過ごせる方が増えてきております。
食道がんの手術には、大きく分けて胸部食道がんの手術(食道亜全摘)と頸部食道がん(頸部食道切除)の2種類があります。
胸部にできた食道がんは首(頸部)から胸の中(胸部)、おなか(腹部)の広い範囲のリンパ節に転移を起こします。したがって、手術ではそれらをすべて取り去ってしまう(切除)ことが重要となります。
以前は胸やおなかに20-30cmほどの大きな創を開けて(開胸、開腹)、がん部を切除する、体に大きな負担のかかる手術でした。大きなダメージを少しでも軽減するために、現在当院で標準的に行っているのが、胸腔鏡・腹腔鏡やロボット支援下での食道がん手術です。
この手術は体の創を最小限にして手術の負担、術後の痛みを軽減することができます。さらに、大きく映し出された鮮明な映像(4K、3Dカメラ)を元に手術を行うため、より精緻な手術が可能になります。
・右の胸~脇腹にかけて、5mm~10mm程度の創を6つあけて、胸の中にある食道とリンパ節を切除します。
・上腹部に6cm、その周りに5mm~10mm程度の創を5つあけて、おなかの中にあるリンパ節を切除し、胸の中で切除した食道とともに取り除きます。
・左右の頸部のリンパ節も同時に切除する場合には、頸部にU字の切開を、切除は不要な場合には左頸部に5cmほどの切開をいれ、リンパ節を切除します。
食道が切除されると、食事の通り道がなくなってしまいます。そこで胃を細長く形成して、胃を管状(胃管)にします。胃管を頸部まで挙上して、残っている食道とつなぎなおし(再建)します。
頸部食道がんのリンパ節転移は頸部の周囲に限局していることが多いので、手術で取る範囲は頸部にとどまりますが、頸部食道は咽頭や喉頭と連続しているため、がんの拡がりによっては喉頭を一緒に取らないといけない(声を失う)ことがあります。
手術のお話の前に頸部のしくみを少しだけ紹介します。図に示すように、口から入る食物は、のど(咽頭)を通って、食道に送り込まれます。一方、空気(息)も咽頭を流れていきますが、喉頭から気管に送り込まれます。食物と息の交通整理をしているのが喉頭になります。
図に示すように、食道のみを切除するだけでがんを取り除ける場合は喉頭を残すことができます。
咽頭や喉頭にがんが広がっている場合は、喉頭を同時に切除しなくてはいけません。その時は息の通り道(気管)を切断してのどから体外に出すことになり、声が出せなくなります。
当院では、咽頭に癌が及んでいる場合や気管にもがんが浸潤しているような場合にも、喉頭を温存する術式を開発しております。 すべての場合に温存することはできませんが、喉頭の温存を希望される場合には、一度当科にご相談ください。
当院では胸部食道癌に対するロボット支援下食道がん手術を行っています。
現在、当院ではdaVinciとHinotoriの2種類のロボットが稼働しており、いずれのロボットでも食道がん手術を受けることが可能です。また、当院ではロボット支援手術における認定指導医が手術を行っており安全で低侵襲な手術を実践しています。
進行がんが周囲臓器にまで食い込んでいるかを精密に検査することが可能です。