診療している主な病気
脳腫瘍の治療について
脳腫瘍と一口に言っても、頭蓋内に発生する腫瘍性疾患は良性から悪性まで、またその発生母地などにより多岐に亘ります。関西医科大大学脳神経外科では、様々な頭蓋内腫瘍に対して最先端の診断機器、手術機器を用いて診療を診断から治療、治療後のフォローまで一貫して行っております。
原発性脳腫瘍の代表格である神経膠腫は、手術、放射線治療、化学療法などの集学的治療を要します。手術では、患者さんの全身状態、腫瘍の発生部位、想定される悪性度などを考慮したうえで、様々な手術機器を駆使して安全かつ最大限の摘出が達成される様努力しています。具体的には、ナビゲーションシステムによる画像支援、5-ALAを用いた腫瘍の術中確認、電気生理学的モニタリングによる機能温存を図っております。術後は、病理組織、摘出率、患者様の状態に応じて、適切な後療法(放射線化学療法)などを提案し、実践しています。
良性脳腫瘍の代表格である髄膜腫、聴神経腫瘍などについては、無症候性で発見される事もあり、経過観察も含めた最良の選択を患者様とともに考えていきます。治療は主に手術治療が中心となりますが、良性腫瘍においても新たな神経症状を出さないことを最大の目標とした最大限の摘出を図ります。術後は病理組織の結果に応じて、放射線治療などの追加を提案することもあります。初期治療終了後も、定期的な画像フォローを行い、長期的な再発のチェックを行い、必要時再治療を行います。
下垂体腫瘍は、ホルモンを産生する組織である下垂体に発生する良性腫瘍ですが、ホルモンの過剰分泌症状で見つかる場合、隣接する組織への圧迫症状、特に視機能障害で見つかる場合があります。また脳ドックなどで偶発的に発見される場合も時々あります。下垂体腫瘍については内分泌内科とも共同で診療を行い、手術が必要な場合は、神経内視鏡手術を用いた低侵襲手術の対応も可能です。
悪性脳腫瘍の中には、他臓器の悪性腫瘍が脳に転移して発生する転移性脳腫瘍の発生も増加傾向にあります。転移性脳腫瘍については、患者様の全身状態、脳腫瘍による症状の有無、病変の数などから総合的に判断し、手術治療、放射線治療、定位的放射線治療などの適切な治療を選択いたします。
小児脳腫瘍については、小児専門の脳神経外科医師が、小児科、新生児科のスタッフと協力して診療に当たります。特に、お子様の長期的な成長も見越した治療プランを提案させていただきます。
脳血管障害について
脳血管障害の外科的治療は、脳血管障害が発生する前に発生を予防する予防的外科治療と、発症された場合の急性期外科治療があります。 脳血管障害については、全国的に脳卒中ガイドラインが整備されており、当院でもガイドラインに則った標準的治療を実践しています。当院では脳卒中担当医師が常駐してぉり、救命センターと良好な連携で24時間対応を行っております。
クモ膜下出血は、通常脳動脈瘤が破裂することで、発症する急性期脳血管障害の代表的疾患で、通常は急性期に動脈瘤の再出血予防のための外科的治療が選択されます。再出血予防のための外科的治療としては、開頭手術による動脈瘤頸部クリッピング術と血管内治療による動脈瘤コイル塞栓術がありますが、当院では患者様の状態、動脈瘤の部位、形状に応じてより良いと思われる治療を提案しています。術後は早期リハビリを行いながら、慎重な観察を行い、良好な社会復帰率を誇っています。
脳出血は、脳内に出血が発生し、機能障害が生じる疾患ですが、脳出血についても患者様の状態や発生部位などを勘案して、手術的治療、保存的治療を選択しています。早期リハビリと良好な病診連携システムにより途切れることないリハビリを実践しており、患者様の機能回復に努めています。
脳梗塞は、脳血管が何らかの理由で閉塞することにより脳組織が壊死することで発生する疾患です。当院では脳梗塞は神経内科医師が主に対応しておりますが、脳卒中センターとして常時情報共有しており、必要な場合脳神経外科が診療をお手伝いする場合があります。 脳動静脈奇形やモヤモヤ病などの希少疾患が原因となる脳出血、くも膜下出血についても、治療経験豊富な専門医が診断、治療に当たっております。
脳血管障害に対する予防的外科手術としては、未破裂脳動脈瘤に対する動脈瘤頸部クリッピング術・動脈瘤コイル塞栓術、頸部頸動脈狭窄症に対する頸部血行再建術、慢性脳血流不全に対する頭蓋内血行再建術(バイパス術)などがあります。
頭部外傷
頭部外傷について 当院では、高度救命救急センターを併設していることもあり、重症頭部外傷の患者様が比較的多く搬送されます。重症頭部外傷は転落、交通事故などで発生することが多いですが、頭部単独の損傷のこともあれば、他臓器にも損傷が及ぶ多発外傷の一部として頭部が障害される事があります。当科では、経験豊富な救命センターの医師と連携して頭部外傷の治療に当たっています。急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫などの局在性の病変に対しては、迅速な対応で救命的手術を行っております。また、びまん性脳腫瘍、脳挫傷といった頭蓋内圧亢進を示す患者様には脳圧センサー留置術を行ったうえで全身管理を行い、脳保護その他適宜必要な治療を行っております。
セカンドオピニオンについて
当院へのセカンドオピニオン
当院脳神経外科では、他科での診療中の患者様のセカンドオピニオンも随時受け付けています。ただし、セカンドオピニオンとして定期的に開設している時間枠は御座いませんので、詳しくは、072-804-0101(代表)までお問合せください。
当院からのセカンドオピニオン
当院でご診療中の方で、他院へのセカンドオピニオンをご希望の方は担当医にご遠慮なくお申し出ください。ただし、資料作成準備に時間を要する場合があります。
診療実績
診療実績(2023年度版)
外来新患者数 | 943人/年 |
外来延患者数 | 10,065人/年 |
入院新患者数 | 889人/年 |
入院延患者数 | 13,333人/年 |
手術実績(2023年度版)
手術総数 |
440 |
|
脳腫瘍 |
総数 |
125 |
腫瘍摘出術 |
101 |
|
生検術 |
5 |
|
経鼻手術・内視鏡手術 |
17 |
|
その他 |
2 |
|
脳血管障害 |
総数 |
77 |
破裂動脈瘤 クリッピングほか |
10 |
|
未破裂動脈瘤 クリッピングほか |
14 |
|
血行再建術(バイパスなど) |
14 |
|
血腫除去 |
22 |
|
AVM |
2 |
|
CEA |
8 |
|
直達術 その他 |
7 |
|
血管内治療 |
総数 |
81 |
血管内 破裂 |
13 |
|
血管内 未破裂 |
18 |
|
血管内 AVM・AVF |
5 |
|
血管内 CAS |
16 |
|
血管内 急性期再開通 |
13 |
|
血管内 その他(腫瘍塞栓含む) |
16 |
|
外傷 |
総数 |
64 |
開頭術 |
19 |
|
穿頭術 |
38 |
|
その他 |
7 |
|
水頭症・奇形 |
総数 |
77 |
髄液シャント関連 |
34 |
|
水頭症 内視鏡術 |
7 |
|
水頭症 その他 |
13 |
|
奇形 頭部 |
3 |
|
奇形 脊髄 |
20 |
|
脊髄 |
総数 |
5 |
腫瘍 |
3 |
|
空洞症 |
2 |
|
機能 |
総数 |
7 |
微小血管減圧術 |
6 |
|
不随意運動 |
1 |
|
その他 |
その他の手術(気管切開含まず) |
4 |
治療実績(2023年度版)
脳腫瘍 Grade3以上の合併症 |
1例 |
未破裂脳動脈瘤コイル塞栓術 永続的合併症 |
0例 |
頸動脈ステント 永続的合併症 |
0例 |
トピックス
■Hybrid OR
血管造影装置と手術室を組み合わせたのがHybrid手術室です。 外科手術に加えて血管内治療を併用して行うことができ、より低侵襲で精度の高い安 全な手術が可能です。
■グリオーマに対する覚醒下手術
グリオーマ(神経膠腫)は脳実質から発生する腫瘍です。グリオーマは手術による摘出度により生命予後が変わってくることが
知られていますが、場所によっては手術により重大な後遺障害が出現することがあります。当院では言語野や運動野に生じたグ
リオーマに対し手術前に3D画像を用い神経機能局在を十分に検討した上で手術中に患者さんを覚醒させ、神経機能を確認し
ながら腫瘍を最大限摘出するようにしています。
■脳動脈瘤コイル塞栓術
開頭せずにカテーテルで行える低侵襲な脳動脈瘤治療で、動脈瘤の中にコイルを詰めて出血を予防します。これまでカテーテ
ルでは治療困難であった形状の動脈瘤に対してもデバイスの進化により、根治が可能となっています。近年、特に注目されている
フローダイバーター(頭蓋内ステント)も導入されており、安全かつ効率的な治療を行っています。2022年4月より脳血管内治
療科を新設し、脳血管内治療指導医の天神博志理事長特命教授が新たに加わり一段と強力な陣容で診察しています。
■正常圧水頭症
当科では歩行障害、認知障害、排尿障害でお困りの高齢者に、適切に診断・治療することで「もう一花咲かせていただいて、豊 かな老後を送ってほしい」という思いで、積極的に特発性正常圧水頭症の診療を行っています。可能性が高く、治療により改善が 見込めると判断された場合は、タップテストをお勧めし、ご自身でもその変化を体感いただきます。 その元で特発性正常圧水頭 症の可能性が高いと判断されれば、 よく相談したうえで、治療を行うかどうかを決定しています。
■聴神経鞘腫について
当科では神経が複雑に絡む頭蓋底腫瘍の手術に対し、様々な術中神経生理モニタリングを実施することで、手術後の合併症や 後遺症を回避するようにしています。特に聴神経腫瘍は術後に顔面神経麻痺などの後遺症を引き起こしやすく、聴力が残存する 例では温存が困難であることが知られていますが、当院では術後1年後に顔面神経麻痺を認めている症例は27例中2例(7.4%) で、2例ともごく軽度の麻痺にとどまっています。また術前に聴力が残っている聴神経鞘腫21例の手術では、14例(67%)で聴力 の温存を図っています。
■頸動脈血栓内膜剥離術 (CEA)
症候性の頸動脈狭窄病変(50%以上の高度狭窄、NASCET法)、無症候性の頸動脈狭窄(60%以上の高度狭窄)の場合は、頸 動脈内膜剥離術 (CEA) が、 脳卒中再発予防効果に優れています。CEAは、頸動脈を切開して堆積したプラークを取り除く手術 です。CEAの最大のメリットは、脳梗塞などの原因となる不安定プラークをきれいに除去できることです。
■開頭クリッピング術
当院では若年者や血管内治療で不向きな形状の動脈瘤の場合は、開頭クリッピング術も行っています。顕微鏡を用いて、クリ ップで動脈瘤の血流を遮断します。 クリッピング術の場合は、根治性が高く再発の心配がありません。