これまでの歩み
地元の大学卒業と同時に大学院に進学、結婚し麻酔科に入局しました。第1子を卒後4年、第2子をその2年後に出産しました。当時女医のための制度はなく、妊娠7か月まで当直をし、出産2日前まで外来診療をしました。産後は、産休のみ取得し、職場にフルタイムで復帰、当直も男性医師と同様にしました。育児は、夫はもちろんですが、両親が全面的に協力してくれました。第1子出産後に麻酔指導医を取得、第2子出産翌年に学位を取得しました。30代で国立病院に出向、麻酔科を開設、その後別の国立病院に転任、麻酔科を開設しました。約20年間、常勤一人でしたが緊急手術は夜中も含めすべて対応しました。40代後半、母校の麻酔科医が極端に減ったため大学病院との掛け持ちを余儀なくされ、50代では、介護休業を申請したものの、闘病中の母は施行前に亡くなりました。本学に赴任してからは、父の入院や通院は、夫が休暇を取り付き添ってくれています。
女性医師の働き方について
千差万別なので、こうあるべきとは思いません。以前に比べ選択肢は広がり、環境は整ってきているので各自が思う働き方をすればよいと思います。ただ、支えて下さる人、助けて下さった人たちへの感謝を忘れないように。
こつ、というほどでもありませんが、完璧さを家事や育児に求めないのは大事なことと思います。そして、隙間時間を上手に利用すること。家事をしていて仕事のアイディアが閃くこともあります。捉え方によっては、仕事と育児は互いのリフレッシュ時間となります。
優先順序を決めて取り組んだら、できない項目は潔くあきらめて、時間使いの達人になりましょう。
そして量より質。私の場合、子どもとの接触時間は非常に少なかったので、量より質だと思い様々な工夫をしました。一方、勤務時間も同様、麻酔や外来診療以外の空いた時間は調べものをしたり、文献を読んだりして濃厚な就業時間を過ごし、仕事が無ければ早々に帰宅していました。
女性医師が麻酔科で働くことの魅力
麻酔科の適性に男女差はありません。学問としての魅力を述べるのはここでは省略します。
麻酔業務は、短期決戦、一話完結型ですから、時短・育児中の女性も仕事を完遂することができます。これは達成感にもつながる重要なことです。
術前診察では短時間で患者さんの信頼を得、患者さんの病状のみならず、そのパーソナリティや家庭環境、社会的な背景を把握しなければなりません。コミュニケーション力と洞察力を駆使し、きめ細やかなオーダーメイドの麻酔をすることは、一期一会であり、時短・育児中の女医もできることです。
また、多くの診療科と対峙し要望を受け入れる麻酔科は海納百川にも例えることができます。各診療科に特性があり夫々に対応しますので、視野とキャパシティが広がります。
本学の麻酔科には、ライフイベント中の女医が働ける環境が整っています。実際、多くのママさん女医が在籍し、彼女たちに支えられていると言っても過言ではありません。
女性医師へのメッセージ
ライフイベントなんて、自分の思う通りにはいかぬもの、仕事にしてもそうです。抗うことなく人生の流れに乗って、遡ることはできないけれど分岐点でひょいと方向を変えてみる。行き詰って淀んでいるようでも、何かアクションがあれば、水面下では変化が起きますし、止まっているようでも少しずつ進んでいます。
ゆく川の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず。よどみに浮かぶ泡沫は、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
そんな人生の川に浮かび私は現在にたどり着きました。根本に探求心があれば、仕事を続けることができると思います。医師として社会に貢献できることは幸せなことでもあります。そして、人との出会いとつながりを大切にしてください。流れを変える分岐点になるのは人です。ひとりで悩まず、いい意味で人を巻き込みましょう。オール女性医師キャリアセンターも活用していただければ、と思います。