股関節外科は、先代教授である飯田寛和先生を中心に17年間で約4000例の股関節外科手術を施行し、関西医科大学整形外科の核である診療班の一つです。取り扱う疾患は小児から成人まで幅が広く、小児では主に先天性股関節脱臼・ペルテス病・大腿骨頭すべり症など、成人では寛骨臼形成不全症(臼蓋形成不全症)・変形性股関節症・大腿骨頭壊死症・関節リウマチ・化膿性関節炎などを、それぞれの病状に合わせた治療を選択しています。また近年、スポーツなどによる使い過ぎや骨盤の形態異常により生じる股関節唇損傷に対し、股関節鏡手術も行なっています。
(スタッフ:左から小林、おおえ、中村、寒川)
本邦における寛骨臼形成不全症(臼蓋形成不全症)の患者は欧米諸国と比べると比較的多く、様々な手術方法があります。当科では、適応が広く、自然経過を損ないにくく、将来人工股関節置換術が必要となった場合にも影響が少ない関節温存手術である「臼蓋形成術」を行っています。「臼蓋形成術」は比較的低侵襲の術式にもかかわらず良好な股関節進行防止効果が証明されており(現在までに150例以上施行し10年生存率は89.3%です)、近年再注目されている術式です。なお、レントゲン的に寛骨臼形成不全症(臼蓋形成不全症)を認めても、直ぐに手術を勧める訳ではなく、まずは保存的加療を選択することも多いので悩んでいる方はご相談ください。
(14歳女性、寛骨臼形成不全症に対する臼蓋形成術)
関節が高度に変形し、疼痛が強く、日常生活に支障をきたしている場合「人工股関節置換術」を施行しています。近年日本においても人工関節の需要は増え、様々なインプラントが市販されていますが、もちろんどれでも同じではありません。当科では、30年以上の安定した超長期成績が報告されている「セメント人工股関節置換術」を施行しており、他施設で治療が困難な高度変形、骨欠損、感染など難易度の高い疾患や再置換術も多数行っております。「セメント人工股関節置換術」は脱臼率や再置換率が低く、国内外から500人以上の股関節外科医の先生が手術見学に来られています。現在までに約4000例施行し、当科の「セメント人工股関節置換術」は機能回復を心掛けておりますので、治療をあきらめた方や悩んでいる方は御相談ください。
(60歳女性、高度脱臼症例)
(75歳女性、感染による高度骨欠損に対する再置換症例)
股関節唇損傷とは、スポーツなどによる使い過ぎや骨盤の形態異常により股関節痛が生じる病気です。15年ほど前にスイスの先生たちによって提唱され、診断技術の向上により本邦においても原因の分からかなかった股関節痛が診断できるようになりました。近年この病気が増えた訳ではないのですが、治療技術も進歩しさまざまなスポーツ選手が手術を受けています。当科では、股関節唇損傷の症状は自然軽快することも多いためまずは保存的加療を勧め、痛みが取れない場合に「股関節鏡手術」を施行しております。股関節唇損傷は一般整形外科医では診断に至らないことも多く、整形外科以外の科を受診されることもあり、原因の分からない股関節痛を自覚されましたら一度当科へご相談ください。
「セメント人工股関節置換術」は1962年英国のCharnley先生によって開発され、本邦では1970年に導入されました。半世紀以上前に考案された方法ですが、1)長期成績が安定していること、2)あらゆる症例に対応が可能であること、3)再置換時に抜去が容易でかつ再建時に必要な手技であるため、当科では一貫して使用しています。近年、米国を中心にセメントを使用しない人工股関節置換術が世界的潮流ですが、手術手技の限界もあり「セメント人工股関節置換術」が再注目されています。当科では2008年から「セメント人工股関節置換術セミナー」を年2回開催している指導的立場の病院であり、のべ450人以上の股関節外科医の先生が参加されています。
(第10回枚方セメント人工関節セミナー、2018年8月)