ご挨拶
臨床解剖教育研究センター設置にあたって
これまで外科系手術手技の習得においてはon the jobトレーニングが主体であり、これに動物やシミュレータを用いたトレーニングが補助的に用いられてきました。但し、これらのトレーニングでは、患者不利益につながる恐れや、解剖学的構造の差異等に起因する限界があります。これ対し海外では、ご遺体を用いた手術手技研修(Cadaver Surgical Training, CST)が、古くから執り行われてきました。本邦でも、日本解剖学会と日本外科学会が共同で作成した「臨床医学の教育及び研究における死体解剖のガイドライン」が平成24年に公表されて以来、CSTは全国の医学部・歯学部を擁する大学において少しずつ広まってきました。本学におきましても、外科系を中心とした診療科よりCST実現を望む声が高まってきたことを受け、臨床解剖教育研究センター(通称CSTセンター)を設置することとなりました。
本センターにおける業務は、以下の教育研修・臨床研究に関わる内容となります。
献体されたご遺体を用いた医療手技の修練
医師・歯科医師を対象とした医療手技の修練、医療従事者の医師との医療連携行為等
献体されたご遺体を用いた研究
人体の構造や物性等に関する研究、医療技術・医療機器開発研究等
献体されたご遺体からの正常人体情報の抽出
正常人の人体情報の医学教育・研究への応用等
本邦のCSTでは献体されたご遺体を使用することが前提となっていることもあり、運営の透明性の担保や、研究・研修計画の審議・承認を専門に取り扱う専門委員会の設置、日本外科学会内設置のCST推進委員会への年次報告書提出の義務等、上記ガイドラインにおいて様々な要件が課されています。本センターでは、これらの要件を満たすべくCST及びご遺体を使用した臨床研究に関する業務を中央管理します。また、本邦で実施されるCSTにおいては、受益者負担の原則から、近年では研修受講料の徴収が求められつつあります。先端医療機器や医療器具を提供するメーカーとの利益相反マネジメント等にも、十分な配慮を行うことが必要となります。これらの業務も一括して担当することで、本学におけるCSTを円滑に執り行います。
本センターでは、CSTを通じた北河内および京阪沿線を中心とした地区における医療安全の向上と先端医療技術の牽引に貢献いたします。また、本学発の医療技術・医療機器開発を目指します。なお、本学におけるCST、及びご遺体を用いた臨床研究が可能になりましたのは、本学白菊会全会員の皆様方の深いご理解とご支援の賜物に他ならず、ここに心より御礼申し上げます。本センターにおける臨床教育・臨床研究の際は、ご献体いただきました故人の尊いご意志とご遺族のご支持に敬意を表す機会として、毎回、黙祷を捧げていただくことをお願いしております。関係の皆様のご理解とご協力を、何卒よろしくお願い申し上げます。
関西医科大学臨床解剖教育研究センター センター長
関西医科大学医学部解剖学 主任教授
北田 容章