各種疾患について
前立腺がん
前立腺は、膀胱と陰茎の間に位置する男性固有の器官で、精液の一部を作る働きを持っています。この前立腺から発生したがんが「前立腺がん」ですが、多くの高齢者に見られる、良性疾患の「前立腺肥大症」とは全く異なる病気です。
「前立腺肥大症」が将来「前立腺がん」に変化することはありませんが、「前立腺肥大症」と「前立腺がん」の両方がそれぞれ発生することはよくあります。「前立腺がん」は、欧米では男性のがんのなかで一番多いのですが(男性のがん全体の30%-40%程度)、ここ数年、日本においても急速に増えてきています。人種差に加え、食生活の影響が大きいと考えられています。
この数十年間、日本人の食生活が欧米化していることもあり、前立腺がんの増加率は日本のがんの中でも最も高く、2040年から2050年ころには日本人の男性のなかで最も多いがんになるとの統計学的な推測もあります。
前立腺がん比較的高齢で発見されることが多く、50歳以下の方にはほとんどみられません。また、男性ホルモンとの関係が深く、男性ホルモンを減らす、あるいはその働きをブロックすることで前立腺がんの進行を抑えることが出来ます。
1.前立腺がんの検査
- 血中PSA(前立腺特異抗原)
- 正常4ng/ml以下。前立腺がんが存在すると高くなることがほとんどです。前立腺がん以外でも前立腺の炎症や前立腺肥大症でも値が高くなることがあります。毎年測定しているPSAが徐々に上昇してきている場合などでは、4ng/ml以下でも精密検査を勧めることがあります。逆に、80歳以上の方では、精密検査をせずに様子を見る場合もあります。
- 直腸診
- 肛門から指を入れて前立腺を触診する検査法です。
- 経直腸超音波検査(エコー)、MRI
- 前立腺がんが疑わしいか否か、前立腺がんが存在した場合の広がりをみるのに有用です。しかし、すべての前立腺がんがわかるわけではありません。
- 前立腺生検
- 肛門から挿入する超音波装置で前立腺を観察しながら、12-14か所前立腺の組織そのものを少し取ってきて調べる検査です。一泊の入院で行っていますが、実際の検査に要する時間は1時間くらいです。できるだけ痛くないように麻酔をかけて行います。生検を行っても、本当はがんがあるのに見つけられない場合があります。その場合は、再生検が必要となることがあります。
2.前立腺がんの治療
前立腺生検の結果、前立腺がんと診断された場合、次には、がんの範囲、すなわち広がり具合を調べます。前立腺がんが周囲の臓器にまで及んでいないか(浸潤)、あるいは離れた部位にがんがないか(転移)、MRIやCT、ラジオアイソトープ(骨シンチグラフィー)などの画像検査を行うことになります。これらの画像診断と直腸診により前立腺癌の病期を診断しますが、さらにPSA値、前立腺生検による癌の占拠部位、推定される腫瘍体積、Gleason(グリーソン)スコア、患者さんの年齢や全身状態などを総合的に組み合わせて治療方法を考えていきます。前立腺癌の治療方法としては手術療法、放射線療法、内分泌療法、無治療経過観察があります。治療後も定期的に再発がないかをみるため、外来通院が必要です。
- 手術療法(ロボット支援腹腔鏡下前立腺摘除術、腹腔鏡下前立腺摘除術、開放手術)
局所に限局する癌や、早期前立腺癌では癌を根絶できる治療法といえます。また術前に内分泌療法を行ってから手術する場合もあります。通常は75才以下で全身状態が良好で、他に重大な合併症を持たない場合に手術適応と考えられます。附属病院(枚方)では2013年8月以後はロボット支援腹腔鏡下前立腺摘除術(RALP)を中心に行っています。開放手術に比べて小さい手術創で、拡大視野で手術をできることが長所としてあげられます。これにより、従来されていた開放手術よりも術後の回復が早い、少ない出血量で緻密な作業ができることが期待されます。
ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術の様子(左:コンソールボックスで術者が手術操作を行う。
右:術者の操作に連動してロボットアームが動き手術が行われる。助手が横につきサポートを行う。)
- 放射線療法:
手術療法と同様に局所限局癌が対象となります。放射線療法は、どのような方でも可能で、かつ全身状態があまりよくないために手術が行えない患者さまや、少し高齢の患者さまなどでも可能な治療方法です。放射線療法には従来からされている外照射療法のほか、前立腺にヨードやパラジウムの小線源のシードを永久的に埋め込んで体内照射を行う小線源治療も行われています。小線源療法については、まだ多くの成績は出ておりませんが、早期前立腺癌に対しては手術療法とほぼ同等であるという結果が報告されております。また、局所限局癌が主な対象ですが、内分泌治療や外照射治療と併用することで手術では根治しにくいような少し進行した患者さまにも対応できるようになってきています。小線源療法については、関西医科大学総合医療センター(滝井)で行っています。
また、前立腺癌術後のPSA再発や進行前立腺癌の骨転移による疼痛を伴う場合にも放射線治療が適応であり、放射線治療は様々な場面で応用ができる治療方法です。
- 内分泌療法:
通常75才以上の高齢者や、局所進行癌・転移を有する進行症例で手術・放射線治療では治療効果が望めない場合が適応となります。前立腺癌を増殖させるのは男性ホルモンといわれており、男性ホルモンを内服・注射で抑えていきます。
- 無治療経過観察:
前立腺癌には臨床的に意義のない癌があります。偶発癌ともいいますが生命や生活を脅かすのに20年を要するともいわれています。特に平均余命10年以下の高齢者や全身状態の不良な症例に選択されます。定期的に血中のPSAを測定しながら経過をみていきます。PSAが上昇し、癌が進行していると考えられるときには積極的に治療を行うことになりますが、癌の進行に比べて治療のタイミングが遅れてしまう危険性はあります。
3.再燃前立腺がん
内分泌療法を長期に続けると、前立腺がん細胞が内分泌療法抵抗性になり、治療中にもかかわらずどんどん増殖するようになります。一般的に前立腺がんはおとなしく進行も遅いと考えられていますが、全てに当てはまるわけではありません。特に前立腺がんが内分泌療法抵抗性になった場合には性質が非常に激しく治療に難渋します。このような場合、抗がん剤による治療をお勧めしています。私たちはドセタキセルという薬剤を使用しています。患者さんの状態にもよりますが、初回は入院で、2回目からは外来通院での治療が可能です。約半数の方に効果があります。
腎臓がん
腎臓は背中と腰の中間あたりに位置し、左右に1つずつある尿を作る臓器です。尿の量を調整することで体内の水分量を調整したり、老廃物を尿中に排泄する働きがあります。腎臓にできる腫瘍の70%近くが悪性であり、そのほとんどが腎細胞がん(じんさいぼうがん)です。腎臓に「がん」ができても、症状は出にくいのが特徴で、以前は、がんがずいぶん大きくなってから、血尿、腹部腫瘤(かたまり)、横腹から背中の痛み、などが3つの代表的な症状といわれた時代もありました。現在では、人間ドック、検診、あるいは体調が悪くてたまたま行った超音波検査やCT検査などで、偶然見つかることが多く、むしろ自覚症状を伴うほうが少なくなってきました。腎臓がんの中でも、悪性度が高く進行が早いがんでは微熱が続いたり、全身倦怠感が強かったりすることがあります。
1.腎臓がんの検査
画像検査が主体になります。エコー、CT、場合によってはMRIなども行います。ほとんどの腎細胞がんはCTによって診断が可能です。特殊な例を除いて、手術の前に生検などで病理学的に確定診断することはありません。転移部位として、肺転移が多いため肺のCTなどを行います。
2.腎臓がんの治療
腎細胞がんの治療は外科的切除術が中心です。附属病院(枚方)では、70%以上の腎細胞がんは腹腔鏡手術で行います。
- 小さな腎細胞がん(4cm以下のがん)
がんの位置により異なりますが、ほとんどの場合、腹腔鏡下腎部分切除術か腹腔鏡下腎摘出術を行います。1990年代に入り腎臓の部分切除術が普及し、できるだけ腎臓の機能を温存したほうが利点があると考えられるようになりました。附属病院(枚方)では、低侵襲(患者さんにやさしい)治療を目指しており、特に、腹腔鏡下腎部分切除術を数多く行っています。腎細胞がんの手術のうち35%程度の手術は腹腔鏡下腎部分切除術であり、この手術では、症例数、技術ともに日本のトップレベルであると自負しています。
当院ではダ・ヴィンチを用いたロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術も行っています。2016年4月より、本邦でもロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術が保険適応となりました。開放手術、腹腔鏡手術と遜色ない成績が報告されています。
- 中等度の大きさの腎細胞がん(4cm以上)
ほとんどの場合、腹腔鏡下腎摘出術を行います。
- 非常に大きながん、周囲の臓器に浸潤しているがん
腎細胞がんの多くは早期がんとして見つかりますが、10人に1人くらいの確率では、進行したがんもあります。このようながんの場合には、腹腔鏡手術は難しいことが多く、開放手術で腎摘出術を行います。
3.腎臓がんの転移に対する治療
腎臓がんの診断時すでに転移があったり、当初、明らかな転移がなくても術後数年して転移が明らかになってくる場合もあります。腎細胞がんに対しては、抗がん剤はあまり効果がありません。以前は、転移巣に対する治療は、ほとんどがインターフェロンという薬を中心にした免疫療法が主体でした。しかし、近年では分子標的薬といわれる薬が日本でも認可され、私たちも多くの患者さんに使用しています。
これらの分子標的薬といわれる薬剤は、がん細胞が増殖するための特殊なシグナル(信号)の流れを止めて、がん細胞が増殖するのを抑える薬物であり、特殊な副作用も多くでますが、今までの免疫療法に比べて明らかに高い効果が示されています。しかし、効果・副作用の面から、インターフェロンのほうが優れている患者さんもいるため、免疫療法を行わなくなってしまったわけではありません。大阪を中心とした7大学が合同で、どのような人にインターフェロンが有効で、また、どのような人に分子標的薬が有効であるのか、調査する臨床比較試験も行っています。
尿路上皮がん(腎盂がん、尿管がん、膀胱がん、尿道がん)
腎臓で作られた尿は腎盂、尿管、膀胱、尿道を通って体外に排出されます。この尿の通り道を裏打ちしている尿路上皮から発生する癌が尿路上皮癌です。癌が発生する部位によって、それぞれ腎盂がん、尿管がん、膀胱がん、尿道がんと呼ばれます。尿路上皮癌の中で最も多いのは膀胱がんです。
尿路上皮がんは多発、再発することが多いがんです。このため、たとえば膀胱にがんが見つかった方は、それ以外の尿路である腎盂、尿管に同様のがんがないかどうかを調べる検査が必要です。尿路上皮がんの発生原因としては、タバコがもっとも重要です。喫煙者は非喫煙者に比べて4倍リスクが高く、長期喫煙歴(45年以上)のある方ではリスクが7倍以上と高くなる、現在禁煙されている方でも、過去に喫煙歴があれば非喫煙者に比べて2倍リスクが高いなどと報告されています。
このほか、アスファルト、石油、タールなどの産業従事者、化学染料を使用する産業従事者などもリスクが高いとされています。再発が多いため、手術的に根治できたような場合でも、定期的な尿細胞診、膀胱鏡検査やCTなどが必要です。
1.尿路上皮癌の検査
- 超音波検査
- 水腎症(腎盂尿管が閉塞して尿の流れが悪くなり腎盂がはれた状態)の有無や膀胱内の様子を観察します。腎盂腫瘍や尿管腫瘍の診断は困難なことがあります。また、膀胱腫瘍でも小さなものや上皮内癌では診断は困難です。スクリーニングに適しています。
- 膀胱鏡検査
- 膀胱、尿道に腫瘍がないか、また膀胱粘膜に発赤など癌を疑う所見がないかを確認するのに有用です。腎盂がん、尿管がんの診断はできません。
当院では軟性膀胱鏡を使用しています。
- 尿細胞診
- 尿中に尿路上皮がんが出ているかどうかを調べる検査です。陽性であった場合、尿路上皮のどこかにがんがあることが確定します。尿路上皮がんがあっても陽性とでないこともあります。
- 点滴静注腎盂造影(drip infusion pyelography: DIP)
- 造影剤を点滴しながら腹部のレントゲンを数分おきに撮影する検査です。造影剤が尿路に出てくるため、レントゲンを撮影すると尿路が白く描出されます。これにより、腎盂尿管の形態、腫瘍の存在を疑う陰影欠損などがないかを確認します。
- 逆行性腎盂造影(retrograde pyelography: RP)
- 腎盂がん、尿管がんが疑われる所見がある場合に行います。膀胱鏡で膀胱内を観察し、腎臓から膀胱への尿の出口である尿管口から造影剤を注入します。これにより腎盂尿管の形態や陰影欠損の有無をみたり、腎盂尿管の尿を採取して尿細胞診を提出します。造影剤にアレルギーがある方でも可能な検査です。
- CT
- 造影剤を用いることで病変の広がり、リンパ節転移、遠隔転移の有無などを診断するのに有用です。
- MRI
- 前述の検査で診断がつかない場合や、浸潤性膀胱癌の診断の補助として使用されます。CT、DIPで用いられるヨード系造影剤にアレルギーがある方でも可能な検査です。
- 尿管鏡検査
- 腎盂、尿管に腫瘍の存在が疑われるが、前述の検査を行っても尿路上皮がんの診断が得られないときに行うことがあります。
2.尿路上皮癌の治療
Ⅰ.手術療法
- ①腎盂がん、尿管がん
- ②膀胱がん
- ③尿道がん
Ⅱ.化学療法(抗癌剤治療)
Ⅲ.BCG膀胱内注入療法
前立腺肥大症
前立腺は、膀胱と陰茎の間に位置する栗の実ぐらいの大きさの男性固有の器官で、精液の一部を作る働きを持っています。この前立腺が年齢とともに肥大するのが前立腺肥大症です。肥大した前立腺によって尿道が圧迫され排尿障害をもたらすことが知られています。前立腺肥大症は年齢と深い関係にあり、40・50代で症状が出始め60歳を過ぎると、半数以上の人が夜間頻尿と放尿力低下を訴え、65歳前後で治療を開始する人が多くなります。前立腺にできる前立腺癌とは違って良性の増殖ですので生命にかかわるような病気ではありませんが、ほうっておくと尿閉といって尿がしたくても全く出せなくなることがあります。
1.前立腺肥大症の検査
- 超音波検査:前立腺のおおよその大きさや残尿の量を測定します。
- 直腸診:肛門から指を入れて、前立腺の大きさ、硬さを評価します。
- PSA測定:前立腺癌の腫瘍マーカーであるPSAを測定し、癌が存在する可能性がまずないことを確認します。
- 尿流動態検査(Pressure flow study:内圧尿流検査):膀胱に水を注入しながら膀胱と直腸の圧を測定し、膀胱の尿をためる機能を調べます。続いて検査機械に向けて排尿していただき、排尿にかかる時間や勢いを調べます。
- 残尿測定:排尿後に膀胱内に尿が残っていないかを調べます。
2.前立腺肥大症の治療
前立腺肥大の治療には内科的治療と外科的治療があります。一般的に軽症の人は内科的治療を,薬物療法の効果のない人,重い人は外科的治療が行われます。内科的療法としてはα1 ブロッカー,植物エキス配合剤,抗男性ホルモン剤,抗コリン剤,抗ムスカリン剤,漢方などが用いられます。外科的療法としては経尿道的前立腺切除術Transurethral Resection of the Prostate ,TURP(ティーユーアールピー) ,経尿道的バイポーラー前立腺核出術(Transurethral Enucleation with Bipolar ,TUEB(チューブ)),ホルミウムレーザー前立腺核出術 (holmium laser enucleation of the prostate, HoLEP(ホーレップ))、温熱療法,尿道拡張法,尿道ステント留置術などがあります。
現在、当院では主にHoLEPとTUEBを行っています。前立腺は内腺(ないせん)と呼ばれる部分と外腺(がいせん)と呼ばれる部分に別れています。「みかん」をイメージしていただき、「皮」が外腺、「実」が内腺と考えてください。HoLEP,TUEBではこの皮と実の間をレーザーではがして、実である内腺だけをくりぬく手術です。出血が従来の方法にくらべて少なく、比較的大きな前立腺に対しても安全に行うことができます。
(C) 2007 Boston Scientific Corporation. ALL rights reserved.
腎移植
当教室では1995年以来、生体腎移植に取り組んできました。 2006年に附属病院(枚方)が開院してからは、こちらで移植医療をおこなっております。近年当科の移植件数は増加傾向にあり、ここ数年は10件/年を超えています。日本臨床腎移植学会及び日本移植学会が認定する腎移植専門医が中心となり、日本移植学会認定資格を有したレシピエント移植コーディネーターや他分野のメディカルスタッフとチームを組んで、移植前の段階からきめの細かい対応をおこなう体制を整えています。移植手術直後は24時間体制にて、最新の医療機器を駆使できる万全の体制のもと管理をおこないます。
- 腎移植とは
- レシピエント(移植を受ける人)の適応について
- レシピエントの入院期間について
- レシピエントの手術について
- ドナー(腎臓を提供する人)の適応について
- ドナーの入院期間・手術について
- 血液型の不一致・不適合について
- 移植腎の予後について
- 献腎移植について
専門医が腎移植について説明致します。
*2 M Yanishi , T Matsuda, et al. Comparison of cosmesis and body image after laparoendoscopic single-site versus conventional laparoscopic donor nephrectomy. Transplantation proceedings 2016
*3 矢西 正明、松田 公志ら 当院における腎移植の臨床的検討と現状 腎と透析 76(4):632-636
副腎腫瘍
副腎は名前の通り腎臓の傍にある臓器で、左右に1つずつあります。
6g程度と小さい臓器なのですが、人間が生命を維持していくために欠かせない大切なホルモンをいくつか分泌しています。副腎は皮質と髄質に分かれており、副腎皮質からはコルチゾールやアルドステロン、副腎髄質からはカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)というホルモンが分泌されています。副腎にできる腫瘍は多くは良性腫瘍です。まれに悪性のことがあります。また、腫瘍の中にはホルモンを分泌する性質をもったものともたないものの2種類があり、このうちどちらであるかにより治療方針が変わってきます。
1.副腎腫瘍の検査
CT、MRI、などを用いて腫瘍の形態、性状などを調べます。また、ホルモンを分泌しているか否かで治療方針が変わってきますので、血液検査や尿検査などの内分泌検査を受ける必要があります。これらは主に内科で行います。通常数日の入院が必要です。ホルモンは食べ物やその時のからだの状態、服用中の薬剤などにより変動しますので、再検査が必要なことがあります。内分泌検査の結果、ホルモンを分泌していることがわかれば、副腎皮質シンチグラフィや123I-MIBGシンチグラフィ、副腎静脈サンプリングなどにより左右どちらの副腎からホルモンが分泌されているのかを調べます。
これらの検査の結果、副腎腫瘍は下記に分類されます。
・非機能性副腎腫瘍
・クッシング症候群(サブクリニカルクッシング症候群)
・原発性アルドステロン症
・褐色細胞腫
まれに一つの腫瘍が複数のホルモンを分泌していることがあります。
2.各副腎腫瘍の症状・治療・予後
- ①非機能性副腎腫瘍
ホルモンを何も分泌していない、内分泌活性のない腫瘍です。
- 【症状】
- 通常症状はありません。
- 【治療】
- 腫瘍径が4cm未満の場合は経過観察でよいとされています。腫瘍径が4-6cmの場合は,急速な増大傾向を示す,画像上良性の腺腫が否定的な場合には手術が勧められます。当院では腫瘍径が10cm程度までであれば腹腔鏡下副腎摘除術を行います.腫瘍径が大きく技術的に困難と考えられる腫瘍,腫瘍径が小さくとも画像上周囲臓器との癒着が疑われる腫瘍,悪性が疑われる腫瘍などについては開放手術を選択することがあります。
- 【予後】
- 多くは良性であり、予後良好であり、再発の頻度は非常に低いです。
- ②クッシング症候群
- 【症状】
- 糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満、骨粗しょう症、免疫力の低下、筋肉の萎縮、血栓ができやすくなる、血管がもろくなる、皮膚が薄くなる、うつ傾向になるなどの症状を引き起こします。
- 【治療】
- 手術が必要です。腫瘍径が小さいものでは腹腔鏡下副腎摘除術を行います。大きなものや悪性が疑われるものでは開放手術を行います。術後にステロイドの補充が必須です。稀にガンであることがあります。その場合は薬物治療が必要となることがあります。手術で副腎腫瘍をとると、それまで過剰に分泌されていたコルチゾールがなくなります。それまで過剰にあったコルチゾールがなくなると、体が変化についていけず、血圧が下がったり、体内の電解質のバランスが崩れたりし、生命を脅かすことがあります。これを防ぐため、術後はコルチゾールの補充療法(副腎皮質ホルモン補充療法、ステロイド補充療法)が必要です。
- 【予後】
- 早期発見、早期治療されれば予後は悪くありませんが、長く治療されずにいた場合、心筋梗塞、脳梗塞、感染症、肺塞栓症などにより死亡する場合があります。
腫瘍からコルチゾールが過剰に分泌されている疾患です。コルチゾールは血糖値の維持や交感神経系、中枢神経系の機能維持などで重要な働きをしており、生命の維持に欠かせないホルモンです。
- ③原発性アルドステロン症
- 【症状】
- 高血圧、低カリウム血症、筋力低下、四肢麻痺、不整脈、手指などの震え、喉の渇き、多飲多尿、耐糖能異常(高血糖になりやすくなる)、腎機能障害などを生じます。そのほか、長期的には心血管障害を来すことが知られています。最近の研究では、アルドステロン自体が心臓や血管(脳や腎臓を含む全身の血管)を障害することがわかってきました。このため、早期の治療が心血管障害の予防に重要とされています。
- 【治療】
- 片方の副腎からのみアルドステロンが過剰に分泌されている場合、腹腔鏡下副腎摘除術の適応です。左右両方の副腎から過剰に分泌されている場合は薬物治療が中心となります。薬物治療で十分な効果を得るには、塩分制限、減量、禁煙、適度な運動が必要です。
- 【予後】
- 術後数日~1週間で高アルドステロン血症、低カリウム血症は改善します。これに伴い、血圧も早期に正常化する方もおられますが、多くの方は週から年単位と時間をかけて血圧が改善していきます。降圧剤が不要になる方もおられますが、50歳以上、長期間にわたり高血圧を患っていた方、腎機能が悪い方、降圧剤を2種類以上服用していた方などでは術後も高血圧が持続しやすいとされています。原発性アルドステロンでは、ほかの高血圧と比べて心臓の肥大や、脳卒中などが高頻度に認められることが報告されており、高血圧が持続したとしても手術的に高アルドステロン血症を解消できれば予後の改善につながると期待されます。
腫瘍からアルドステロンが過剰に分泌されている疾患です。アルドステロンが腎臓に作用すると、水とナトリウムを体に貯める方向に作用します。このため、アルドステロンが過剰だと体内に水とナトリウムが過剰に貯留し、その結果高血圧や電解質異常などを生じます。
- ④褐色細胞腫
- 【症状】
- 高血圧、動悸、発汗、頭痛、便秘、耐糖能異常(高血糖、糖尿病)、体重減少などを生じます。発作性の高血圧や発汗、あるいは持続的な高血圧を示す患者さんが多いのですが、約3割の方は無症状です。ときに、褐色細胞腫クリーゼという命に関わる病態を引き起こすことがあります。この場合、上記症状のほか、悪心、嘔吐、意識障害、心不全、ショック状態などを呈します。
- 【治療】
- 手術が第一選択です。腫瘍径が小さいものでは腹腔鏡下副腎摘除術を行います。大きなものや悪性が疑われるものでは開腹手術を行います。褐色細胞腫を取り去ると、それまで分泌されていた過剰なカテコールアミンが急激に減少するため、収縮していた血管が一気に開くことで血圧が低下し危険な状態になることがあります。このため、手術前にあらかじめカテコールアミンの作用をブロックする薬剤を内服していただき、血管の収縮を緩め、循環血液量を増やしておく必要があります。血圧が正常な方でもこの薬剤の服用は必須です。
- 【予後】
- 一般的に褐色細胞腫は良性ですが、手術の際には良悪性の判断がつきません。半年~数年、あるいは10年以上たってから転移、再発をきたすことがあるため、術後も定期的な検査が必要です。悪性のものでは、有効な治療法が確立されていませんので、早期に診断し手術的にとることが最良の治療方法です。
腫瘍からカテコールアミンが過剰に分泌されている疾患です。カテコールアミンは興奮したときなど、交感神経が強く働くときに多く分泌されます。カテコールアミンの分泌が増えると血管が収縮し血圧が上昇したり、動悸、発汗の原因となります。
尿路結石
尿路(腎臓・尿管)結石症は泌尿器科の中でも最も頻度の高い病気の一つであり、しかも再発する可能性が非常に高いもので、若い人から御高齢の方まで幅広くこの病気にかかる可能性があります。一生のうちに一度は尿路結石にかかる頻度は男性では7人に一人、女性では15人に一人と10年前に比べ約60%も増えています。また最近ではその原因として生活習慣病・メタボリックシンドロームとの関係も指摘されています。一方、尿路結石症は再発しやすい病気でもあり、腎臓の結石においてはその再発する頻度は3年間で30%、5年間で45%とも言われています。この腎臓の結石の再発を繰り返すことにより、腎臓の機能が低下するだけでなく、この結石を取り除く手術による合併症も無視できないものなのです。さらに比較的患者様にとって低侵襲であるESWL(体外衝撃波尿路結石砕石術)においても、最近は治療後の再発が問題とされており、さらにこの腎臓の結石へのたび重なるESWLの治療により将来、腎臓が小さくなるような(腎機能障害)例も少なくありません。そのためESWLを施行する場合には結石の大きさや結石の場所を考慮し適切な患者選択をする必要があります。また、他方では腎臓の機能の低下に伴う慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease; CKD)を患うことによる心血管障害(心筋梗塞、狭心症など)の危険性が指摘されており、腎臓の機能をできるだけ温存する治療を選択することは今後とても大切となると思われます。腎泌尿器外科では、このように普遍的な尿路結石でお困りの患者様に対してご相談の上、以下の治療を行っております。
尿路結石に対する治療
- ①自然排石:比較的小さな結石に対しては、症状をコントロールしながら飲水、運動などの生活指導で自然に結石がでることを期待します。
- ②薬剤的排石促進治療 (medical expulsive therapy: MET)
ある一定の期間、自然排石を期待できないような場合や結石の部位によっては薬剤を投与し排石を促進させる場合もあります。
- ③体外衝撃波結石破砕:ESWL(extracorporeal shock wave lithotripsy)
尿管・腎などの結石の部位や大きさを考慮し日帰りで結石を体外から衝撃波を使用し破砕する手術になります。一度の破砕で結石が砕石されることは比較的稀であり通常2-3回を要する場合が多いです。ただし、2-3回施行しても砕石されないような結石、また結石の大きさが大きい場合(>10mm)には次にお示しする追加治療を考慮する必要性があります。漫然とESWLを施行し続けることは新たな合併症を併発する恐れなどがありますので、医師と相談し治療を選択することが大切です。
- ④経尿道的結石砕石術:TUL (transuretheral lithotripsy)
尿管・腎などの結石の部位や大きさ、尿の流れの状態を考慮しこの治療を選択する必要があります。入院治療が必要です。全ての尿管結石に対して第一選択、またESWL後の第二選択となります。全身麻酔もしくは腰椎麻酔下に経尿道的に内視鏡を挿入し、モニター画面で結石を確認しながら砕石し、確実に結石をなくす方法であります。以前と違い医療器機の発展もあり、かなり内視鏡が細くなっているので、患者様に対する負担(低侵襲)も少なくなってきています。ただし、結石の状態によっては一度の手術で治療が終了できない場合もあり、二回に分けて手術を行う(一旦退院の上)場合も稀にあります。
- ⑤経皮的腎砕石術:PNL (percutanous nephorolithotomy)
尿管・腎などの結石の部位や大きさ、尿の流れそして結石のある腎臓の状態を考慮しこの治療を選択する必要があります。入院治療が必要です。特に大きな腎結石(>2cm)やサンゴ状結石、一部の尿管結石には第一選択となります。全身麻酔で行うことが基本であり通常は腹臥位で行います。経皮的に腎臓に対してトンネル(トラクト)を作り、そこから内視鏡を挿入し結石を確認し砕石します。ただし、結石の状態、また出血などの状態によっては一度の手術で治療が終了できない場合もあり、二回に分けて手術を行う(入院継続の上)場合もあります。そのため入院期間は2週間程度と少し長めの入院加療が必要となります。
- ⑥その他
- (aTUL assisted PNL (TAP:ECIRS):前述したTULとPNLを同時に併用し手術を行います。
- (b開放下腎、腎盂、尿管切石術;20-30年ほど前には、多く行われていたが今はほとんど行われなくなってきています。
- (c 腹腔鏡下腎盂切石、尿管切石術:大変稀な場合(非常に大きな結石、PNLではどうしようもない結石)にはこのような治療選択も考慮いたします。
*関西医科大学総合医療センター(滝井)では、特に結石治療に力をいれており、結石治療センターを設けました。f-TULを2年前から始め現在までに300人の尿管・腎臓の結石の患者さんを治療しています。さらにこれらの治療を全身麻酔で行うことにより患者様が眠っている間に手術を終えるようにしています。結石治療センターはこちら
男性科学
男性科学Andrology(アンドロロジー)とは、胎児期から新生児期、思春期、更年期、老年期と、特有の成長と加齢現象を持つ男性について、さまざまな角度から総合的に理解し、より健全で幸せな男性としての人生を送れるようにサポートする学問です。男性の特徴の源となる男性ホルモン(テストステロン)の分泌のメカニズムと役割、テストステロン分泌不全をきたす疾患の理解と診断治療、精子形成の機序の解明と男性不妊症の診断治療、男性更年期障害の解明と診断治療、勃起と射精のメカニズムの理解と診断治療などを、具体的な研究テーマ、あるいは臨床上のテーマとする分野です。
Ⅰ.男性不妊症
正常な夫婦が避妊せずに夫婦生活を行っていると,90%の夫婦は1年以内に妊娠すると言われています.したがって避妊せずに夫婦生活を行っているのに1年以上妊娠しない場合を不妊症と言います.そして,その半分は男性側に異常を認めます。
1.男性不妊症の検査
- ①診察:精巣(睾丸)の大きさ,精索静脈瘤の有無などを診察します。
- ②精液検査:最低2回行います。
- ③内分泌検査:採血して男性ホルモンや精巣の働きを調節するホルモンを測定します。
※オプション検査(必要に応じて行う検査)
- ①超音波カラードプラ:精索静脈瘤が疑われる場合に行います。
- ②染色体検査:無精子症や高度乏精子症の場合に血液で染色体に異常が無いかを調べます。
- ③経直腸エコー:精液が尿道に出る部分の閉塞の診断に行います。
- ④精巣生検
- ⑤精管造影
2.男性不妊症の治療
◆無精子症
- ①非閉塞性無精子症
精液中に精子が無くても,精巣にはわずかに精子がある場合があります.したがって手術で精巣から精子が回収出来れば,顕微受精で妊娠の可能性があります.精巣から精子を回収する手術を精巣精子採取術(testicular sperm extraction:TESE)と言いますが,当科では局所麻酔で行っていますので,手術直後より食事・歩行が可能で,手術翌日には退院できます.また回収率を向上させるために顕微鏡を用いたTESE(microdissection TESE)を行っています。 - ②閉塞性無精子症
小児期の鼠径ヘルニア手術による精管の閉塞や,精巣上体炎による精巣上体(副睾丸)の閉塞,射精管(精液が尿道に出て来る部分)の閉塞などがあります。これらは精巣で精子が正常に出来ているので,手術で閉塞を解除すれば自然妊娠が期待できます.精管,精巣上体の閉塞に対しては顕微鏡手術(精管精管吻合術,精巣上体精管吻合術),射精管の閉塞に対しては内視鏡手術(射精管開放術)を行っています。
精巣精子採取術、パイプカット術後の精管精管吻合術は全額自費(保険適応外)、外来診療費、差額ベッド代、食費などは別料金となります。
閉塞性無精子症に対するTESE :10万円+精子凍結料金別途
精管結紮術(パイプカット)術後:片側40万円、両側50万円
精巣精子を採取して体外受精、顕微授精を受けられると、患者さんが一定の条件を満 たせば、行政から特定不妊治療費用補助金(体外受精30万円+精巣精子採取15万円) の交付を申請することができます。詳しくは、大阪府のホームページ (http://www.pref.osaka.lg.jp/kenkozukuri/boshi/josei.html)をご覧ください。
なお、当院では避妊目的の精管結紮術(パイプカット)は受け付けておりません。
◆乏精子症
- ①精索静脈瘤
精巣のすぐ上の静脈(蔓状静脈叢)に血液が逆流して静脈が拡張したもので,男性不妊症の原因の一つと考えられています.精索静脈瘤は手術で治療します.乏精子症で精索静脈瘤を認める場合は精索静脈瘤の手術をお勧めします.当科では合併症および再発が最も少ない顕微鏡下低位結紮術を行っています。また局所麻酔で行っていますので手術直後より食事・歩行が可能で,手術後数日で退院できます。
- ②精索静脈瘤が無い場合
薬物療法や,人工授精・体外受精といった補助生殖技術(assisted reproductive technology:ART)で治療します。
◆射精障害(射精不能症)
◆勃起障害(ED)
Ⅱ. ED(勃起障害)
ED(Erectile Dysfunction:勃起障害)は日本において1130万人の予備軍があるといわれています。原因は多岐にわたります。加齢に伴う衰えもありますが、糖尿病や高血圧、動脈硬化といった生活習慣病がある場合、EDの発症率は上がります。また骨盤内の手術や内分泌異常によっても起こります。その他、ストレスなどの環境因子や性行為の不成功による心因性のものもあります。
1.勃起障害の診察、検査
専門外来は予約制となります。診察は勃起障害の程度をみるための簡単な問診表(IIEF5)の記入、既往症の確認などを行います。検査としては血液による内分泌検査、夜間勃起(勃起機能が正常なら睡眠中に何度か勃起が起こっている)を調べる検査を行います。
2.勃起障害の治療
治療は勃起障害治療薬による薬物療法が主体となります。心因性のEDに対しては行動療法が有効とされています。薬物療法を行う場合は、心疾患がないかどうか負荷心電図を行う必要があります。心疾患があると薬物療法が行えません。
勃起障害治療薬には現在3種類(バイアグラ®、レビトラ®、シアリス®)の薬があります。どの薬も作用や効果は同じですが、服用のタイミングの違いや食事、アルコールの影響をうけるものもあり、どの薬を用いるかは相談して決めています。
Ⅲ.低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(MHH)
脳の視床下部または下垂体の機能不全のために精巣からのテストステロン分泌不全を来たし二次性徴の発現遅延,性機能の低下や,男性不妊症の原因となる比較的まれな疾患です。原因は先天性のものと後天性のものがあります。
1.MMHの検査
・身体所見の診察:外性器の発達の程度,精巣容積を測定します。
・ホルモン検査:採血を行い,脳の下垂体から分泌される黄体形成ホルモン(LH),卵胞刺激ホルモン(FSH),テストステロンなど,男性化や精子形成に関るホルモン値を測定します。また,ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)やヒト胎盤性性腺刺激ホルモン(hCG)を注射し,LH,FSH,テストステロンの反応を見ることで下垂体や精巣の予備能を測定する負荷試験を行います。
・精液検査:精液中の精子濃度や運動率を測定します。
・画像検査:後天性の場合は脳に原因となる病気がないか調べるためにMRIを行います。
2.MMHの治療
①ヒト胎盤性性腺刺激ホルモン(hCG)+rhFSH(遺伝子組み換えヒト卵胞刺激ホルモン)併用療法
②テストステロン補充療法
③ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)がありますが,原疾患,年齢,妊娠の希望の有無により患者さまに応じた治療を選択します。
先天性の場合, hCG(LHと同様の作用)とFSHを併用するホルモン補充療法を行い二次性徴を発現させ,さらに精子形成を誘導します。後天性で原疾患が明らかな場合は(脳腫瘍など)脳神経外科などと協力したうえで原疾患に対する治療とホルモン補充療法を行います。hCG-FSH療法は、自己注射(皮下注)を行うことができ、医療費は国から補助されています。
男性更年期
附属病院(枚方)では、男性更年期障害(LOH症候群)診療は自費診療となります。
男性更年期障害(LOH症候群)の主な診療内容は、症状の把握のほかに、男性ホルモン値を主とする血液検査、男性ホルモン補充療法などです。検査や治療において、診療内容が健康保険の規定に合わない点が生じています。そこで、男性更年期障害(LOH症候群)の診療をすべて自費診療とさせていただくことにいたしました。患者さま各位には大変ご迷惑をおかけしますが、ご理解いただきますようお願い申し上げます。
実際の診療にかかる費用は、初診時(血液検査を含む)に約2万6千円、再診時(薬剤投与を含む)に4000円ほどです。なお、検査の結果、保険診療が適当と判断される病態の場合は、保険扱いとさせていただきます。
男性更年期障害は、年齢とともに男性ホルモンが徐々に低下することによって、様々な症状が現れる疾患です。これまでは女性の更年期障害が社会的のも多く議論されてきましたが、近年、男性にも女性と同じように更年期障害のあることが明らかとなり、注目されています。症状としては、勃起障害、性欲低下などの男性性機能障害、やる気がでないなどのうつ的症状、のぼせ、汗をかくなどの自律神経失調症状を生じます。ただし、男性更年期障害以外の病気でもこれらの症状が出ることがあり、診断には血液検査などの結果を見て慎重に判断しなければなりません。
発症には、この年齢の男性に襲い掛かるさまざまなストレスも大きく関与していると考えられています。個人によって、男性ホルモンの値に個体差があり、また、同じ男性ホルモンの値でも症状の出る人も出ない人もあります。どのような男性で更年期障害が発症するか、まだ明らかではありません。
1.男性更年期の検査
・問診
・身体診察:男性ホルモンを分泌している睾丸(精巣)のサイズを測定したり、前立腺がんの疑いがないか確認するため直腸診などを行います。
・血液検査:男性ホルモンであるテストステロンを測定します。このほか、男性ホルモンの分泌を刺激する下垂体ホルモンも測定することがあります。男性ホルモンは午前11時までに測定する必要があるため、病院にお越し頂いた時間によっては、後日改めて採血に来て頂くようお願いすることがあります。また、ある種の薬剤を服用している方では、その薬剤を一旦中止してしばらくしてからの採血をお願いすることがあります。
2.男性更年期の治療
男性ホルモン補充療法:男性更年期障害の本質は男性ホルモンの加齢に伴う減少ですから、治療としては男性ホルモンを補うことが理にかなうと考えられます。もし男性ホルモンの補充療法を行う場合は、前立腺癌がないことを確認するために、血清前立腺特異抗原(PSA)を調べる採血を行うと同時に、前立腺の触診を行って異常のないことを確認してから治療を開始します。
私どもは治療開始から3ヵ月目にその効果を判定し、有効と判断された場合はさらに3ヵ月の投与をおこないます。その場合、合計して6ヵ月間の治療を行うことになりますが、その後は副作用などの面から、一旦治療を終了して経過をみるようにしています。
男性尿失禁
尿失禁とは尿失禁とは、自分の意志とは関係なく尿が漏れることをいい、膀胱または尿道の異常によって生じます。尿道が原因で尿が漏れる場合の多くは、尿道を締め付ける尿道括約筋の障害が原因です。
尿失禁の種類と原因尿失禁にはいくつかのタイプがあります。
失禁のタイプ | 特徴 |
---|---|
腹圧性 | 重いものをもつ、咳、くしゃみなど腹圧がかかると尿がもれる。 |
切迫性 | 急に尿がしたくなり、こらえきれずに尿をもらしてしまう。 |
混合性 | 腹圧性と切迫性が混合している。 |
そのほか | 尿を出し切れずにもれる(溢流性)。 寝ているときにもれる(夜尿症)。 |
上記のうち、男性の腹圧性尿失禁の原因として多いものは、
- 前立腺がんに対する前立腺全摘除術後
- 前立腺肥大症に対する経尿道的手術後
- 外傷・脊髄損傷
によるものです。
腹圧性尿失禁の治療(男性)
腹圧性尿失禁に対する治療は、患者さんの病状・状態・生活背景などにより治療方法が異なります。 主な治療法として、薬物療法・骨盤底筋体操・尿パッド・尿失禁防止装具の着用(ペニスクレンメ)・尿道カテーテル・人工尿道括約筋埋め込み手術があります。
人工尿道括約筋(AMS800®)による尿失禁手術
尿道括約筋障害による重度の尿漏れに対して、人工尿道括約筋(AMS800®)を埋め込む手術です。前立腺全摘除術後、経尿道的手術後、外傷、神経因性に伴う尿道括約筋障害により生じた重度の尿失禁が対象になります。この手術は40年以上の長い歴史があり、日本では2012年4月から保険適応になりました。
人工尿道括約筋(AMS800®)のしくみ人工尿道括約筋とは、「カフ」、「圧力調整バルン」・「コントロールポンプ」の3つの主要部分と、それらをつなぐコネクタから構成されています。尿道に巻きつけられた「カフ」が尿道括約筋の働きをして緩やかに尿道をしめ付ける事で尿漏れを防止します。排尿するときは、陰嚢内のコントロールポンプを数回押すことでカフが開き排尿できるといったしくみになっています。
手術による尿失禁防止効果は大変高く、約90%以上の患者さんが1日のパッド枚数が1枚以下になります。
また、アメリカでの報告では手術後の患者さんの生活の質は大きく改善し、高い満足度を示したと報告されています。
女性泌尿器
尿漏れ(尿失禁)、頻尿健康成人女性の4人に1人、40~59歳の女性では約半数の人が尿漏れ(尿失禁)に悩んでいます。尿が漏れることによって生命に危険が及ぶわけではありません。
しかし尿が漏れるために、不安で外出や人に会うのがゆううつになり、快適な生活ができなくなるといういわゆる生活の質(QOL)を著しく低下させることがわかっています。
水分の取りすぎや体が冷えたりすると頻尿になることがあります。しかし、これらは生理的なもの。また、肥満の体質が尿もれの原因になるとも言われています。こうした頻尿や尿もれは年齢とともに増加していく傾向にあるため、加齢によるものとのイメージが強いのですが、決してそうとは限りません。頻尿、尿もれはどの年代にも存在します。加齢や体質のせいと考えるのではなく、病気を疑うことが大切です。
尿失禁
尿失禁はなぜ起こるのか?多くは骨盤底を支える筋肉が加齢や出産、肥満、骨盤内手術(子宮摘出など)などによりゆるむことにより、尿道がきちんと閉鎖できなくなることによって起こります。また骨盤底の機能の維持に重要な働きをしているといわれる女性ホルモン(エストロゲン)が、更年期になり減少してくると症状が顕在化してきます。後で述べる腹圧性尿失禁は50歳代にひとつのピークがあります。
尿失禁のタイプとして
- 腹圧性尿失禁:いわゆる咳やくしゃみ、重いものを持ち上げたりするおなかに力が加わるときに漏れるタイプ。
風邪のときなど、咳やくしゃみをすると漏れる、縄跳びやエアロビクスなどの運動をしたときに漏れる、あわてて立ち上がったときに漏れる
出産後、漏れやすくなった - 切迫性尿失禁:尿意を感じたらトイレに行くまでに我慢できずに漏れてしまうタイプ。
突然、トイレに行きたくなり、漏らしてしまう、水に触れたり、水の音を聞くと、漏らしてしまう
大きく分けるとこの二種類ですが、両方を合併している混合タイプもあります。
他にも反射性尿失禁(尿意、切迫感がないのにもれるタイプ)、溢流性尿失禁(常に残尿がありもれるというよりあふれてくるタイプ)、機能性尿失禁(身体的理由でトイレに間に合わない、行くのに時間がかかりすぎてもれてしまうタイプ)などがあります。
治療は軽症の方には骨盤底筋体操、干渉低周波刺激療法、重症な方は手術などがあります。
骨盤底筋体操;緩んだ骨盤底筋(骨盤の底を支える筋肉や靭帯)を鍛える体操です。根気よく、継続することができればとても有効な保存的治療です。
干渉低周波刺激療法;1948年にはじめて紹介された方法で、原理は二つの異なる中周波電流を体内で交差するように流し、その際生じる低周波を用います。電極を下腹部及び下臀部両側に貼り付けることにより干渉低周波を流し膀胱排尿筋、骨盤底筋群を刺激して、筋収縮を起こさせ尿失禁を治療します。
約7割の患者さんに治療効果があると言われていますが、人により異なりますが効果が現れてくるのは治療6回以降といわれています。
治療効果は継続しないと減少する場合があります。
下腹部と下臀部両側に電極を貼り仰臥位で寝て治療します。治療時間は約20分です。外来での治療が可能で副作用はありません。
保険適応で治療が可能です。
手術;腹圧性尿失禁の手術MTVT手術(tension-free vaginal tape)が主流で、これは経膣的にテープを中部尿道にゆるく設置することにより尿失禁の防止が得られるとする手術で、局所麻酔下に施行でき1~2日間の短期入院で可能です。治癒率が80~90%と高く1993年に報告されて以来、全世界で100万例以上に施行されています。しかしながら恥骨後面を直接見ないでに穿刺針を通すため、膀胱誤穿刺や稀ではあるが腸管穿孔のおそれがあり、骨盤内の血管損傷により後腹膜血腫などの重篤な合併症が報告されています。これらの合併症のリスクを回避する目的で始められたのがTOT手術(trans obturator tape)です。TOT手術はTVT手術と同様にテープで中部尿道を支えることにより尿失禁の防止が得られるとする手術であるが、穿刺針が恥骨後面ではなく閉鎖腔を通るため血管損傷が少なく、膀胱穿孔や腸管穿孔が起こらないと言われています。膣からメッシュ状のテープを尿道の下に留置し、尿道を支えるようにします。お腹に力がかかってもこのテープが尿道を支えるため、尿漏れを防ぐことができます。尿失禁治癒率は80~90%とTVT手術と遜色ないと報告されています。TVT手術と同様に局所麻酔下に短時間(30分程度)で施行でき1~2日間の短期入院で可能です。
骨盤臓器脱(性器脱)
一般に骨盤内にある膀胱、子宮、膣、直腸、小腸などの臓器は筋肉(主に肛門挙筋)や靭帯によって骨盤底に支えられています。骨盤臓器脱とは加齢や出産、骨盤内手術(子宮摘除)などによりこういった支持組織がゆるむことによって骨盤臓器が下がり、それにともない前後腟壁が腟口より飛び出してきます。また病状の進行により尿失禁、骨盤下垂感や股間に何かがはさまったような不快感、下腹部、会陰部にピンポン玉のような何か触れるといった症状がでてきます。ひどくなると尿が出にくくなり、腟口に触れるものを奥へ押し込んで排尿しなければならなくなることもあります。以前認められた尿失禁がなくなったと思ったら、逆に尿が出にくくなり排尿困難をきたす場合もあります。
下がってくる臓器によってそれそれ名称が異なりますが、いくつかが重なって起こることも稀ではありません。
膀胱瘤;膀胱が下がり膣の前壁が飛び出してきます。尿が出にくくなったり、また我慢できずに漏れるようになったりします。子宮を摘除した後に起こることが少なくありません
子宮脱;子宮が下がってきます。
直腸瘤;直腸が下がり、膣の後壁が飛び出してきます。ひどくなると便秘になったりします。
上記の他に子宮を摘除した後に膣の尖部が翻転するように落ちてくる断端脱、そこに腸が落ちてくる小腸瘤などがあります。
下腹部に違和感がある、会陰部が引っ張れられるような感じがある、股間にピンポン玉のようなものが触れる、尿がもれる、残尿感がある、尿がでにくい、気張らないとでないなどの症状がありましたらぜひお尋ねください
骨盤臓器脱は放置すると排尿困難が増悪し腎機能障害になったり、腟壁びらんや腟炎などになる場合があります。きちんと診断し治療すれば治ります。
治療は基本的には手術療法です。手術以外ではペッサリーという器具を腟内に挿入留置して臓器が下がってくるのを防ぐ方法もあります。長期に留置すると膣炎などの感染を起こすことがありますから定期的に交換する必要があります。できれば毎日の自己着脱が理想です。ただしこれは根治的治療ではありません。
過活動膀胱
過活動膀胱とは2002年に国際尿禁制学会にて次のように提唱された自覚症状だけで定義された症候群です。尿意切迫感を主症状とし、多くは頻尿(昼間・夜間)を伴い、一部は切迫性尿失禁を伴う、自覚症状症候群である。
尿意切迫感とは急に起こる、抑えられないような強い尿意で、我慢することが難しい症状をいいます。これは徐々に膀胱に尿がたまり膀胱に多量の尿(400~500ml)がたまったときの尿意感覚は最大尿意といって、生理的な膀胱知覚であり尿意切迫感とは全く異なるものです。
2002年、国内で初めて過活動膀胱の調査が行われました。その結果、40歳以上の12.4%、これを日本の人口に換算すると810万人が過活動膀胱の患者さんであることが推定できます。しかし、実際に治療を受けていると思われる患者さんは70~80万人ほどで、過活動膀胱が病気であるということを知らない人が多くいるのが現状です。
治療は薬物療法(坑コリン剤が中心)、干渉低周波刺激療法、行動療法などです。
間質性膀胱炎
間質性膀胱炎とは慢性的な膀胱の炎症ですが、その原因は明らかではありません。通常の膀胱炎は細菌による感染で抗生物質で治りますが、間質性膀胱炎には抗生物質は無効です。尿がたまってくると膀胱に強い痛みを感じ、少し尿がたまっても尿意をもよおしそのため頻尿になり、排尿すると楽になります。尿検査をしても異常がなく、抗生物質でも症状改善がないため、何件かの医療機関を受診する人も少なくありません。実際、診断もむずかしく残念ながら現在のところ誰にでも効く有効な治療法がないのが実情ですが、正確な診断をし、いくつかの治療法を組み合わせることにより症状を和らげることは可能です。