一般的な気道確保

通常の全身麻酔下手術では経口または経鼻からの気管挿管が一般的であり,状況によっては気管切開が行われたり,気管挿管の代わりにとしてラリンゲルマスク(LMA)やiGelなどの声門上器具(SGA; supraglottic airway)が用いられる.

また,気管挿管の前段階としてマスク換気が行われる.非常に短時間の手術の場合にはマスク換気のみで手術を終わらせることもある.

1. マスク換気

マスク換気で重要なポイントはマスクのフィットと上気道の開存である.総義歯などでマスクフィットが難しい場合には頬部の内側にガーゼなどを上手く入れて頬を膨らませてマスクフィットさせるか,もしくは下顎部をマスクの中に入れて今くフィットさせるかを試すと良い.腫瘍や潰瘍などの存在のためにマスクフィットが困難であることが最初から判明していた場合には鎮静下に自発呼吸を残して挿管することも考慮する.

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[図1] 全身麻酔と咽頭腔

もう1つの重要なポイントである上気道の開存は通常下顎挙上によって行える.図1aは覚醒時の咽頭の様子である.奥に喉頭蓋が見えるほど十分な空間がある.図1bは麻酔導入後の咽頭の様子である.舌根が落ち込んで咽頭にはスペースが無くなっている.しかしながら頚椎疾患などで後屈できないような症例では下顎挙上による気道の開存が困難となることもある.また,扁桃肥大や舌の肥大がある場合にも上気道閉塞が生じやすい.こういった症例では図2に示すような経口もしくは経鼻エアウェイを用いて物理的に喉頭までの気道を作ってやると良い.図1cはエアウェイの使用と下顎挙上によって咽頭の空間ができているところを示している.救急の場でも救急カートにはこれらのエアウェイは装備されているはずなので,少しでもマスクが難しいと感じた場合にはこれらを使用することをお薦めする.これらはまた,別項で扱っている全身麻酔下のファイバースコープ(FOB)ガイド下挿管での有用である.

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[図2] 経口および経鼻エアウェイ

2. 喉頭鏡を用いた気管挿管

気管挿管はマッキントッシュ型喉頭鏡を用いて行うのが一般的である.新生児や乳児では直型のブレードを使うことが推奨されている.また,最近ではAirway scopeやMcGRATHなどの所謂ビデオ喉頭鏡も普及しつつある.

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[図3] スニッフィングポジション

通常の喉頭鏡で気管挿管を行う場合には,挿管の前に適切な準備をしておくことが重要である.いわゆる”スニッフィングポジション”にすることは非常に重要である.”スニッフィングポジション”とは頭部を前方に出し,かつ頭部が前屈しない姿勢である.つまり後頭部に枕を入れて頭部を挙上させ,顔の面は水平もしくは頭側に傾斜するような高さに調節した状態である.図3に示すように適切な高さの枕を用いて”スニッフィングポジション”をとった場合には気管軸も頭側に向けて傾斜し,声門を直視しやすくなる.筋弛緩が効いた状態で”スニッフィングポジション”を取ると口も最初から半開きの状態になり開口もし易くなる.

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[図4] 喉頭展開における喉頭鏡の操作

喉頭展開において重要なポイントは2つある.一番目は喉頭鏡のブレードできっちり舌を左方に押しやって視野を作ることである.ブレードと下顎の間に舌を挟むとそれだけ視野を狭くするため喉頭を視認しにくくなる.二番目は喉頭鏡の操作方向である.図3に示すように喉頭鏡のハンドルは斜め前方に持っていくことである.これによって口はさらに開口し,広い視野が得られる.つまり喉頭鏡のブレードは上の門歯から離れる方向に進められる事になる.初級者は喉頭鏡のハンドルを手前に引くことが多いが,この場合喉頭は上方に押し上げられる事になる一方で手元は下がるため喉頭が視認しにくくなる.さらに喉頭鏡のブレードは上の門歯を押す事になり,注意しなければ歯牙損傷する事になる.多くの場合気管挿管で歯を折るのは誤った喉頭鏡操作が原因であると言ってよい.広島大学の讃岐先生が薦める「喉頭鏡の素振り」はこのような誤った操作を無意識にも行わないようにするためのものであると筆者は考えている.

3. McGRATH

近年ビデオ喉頭鏡が普及しつつある.最初に登場したのは脳外科医が開発したAirway scopeである.これは挿管に慣れていない人間でも容易に挿管できることを目的としている.予期しない挿管困難症例の多くはこの器具で挿管できるようになり麻酔科医もその恩恵を受けている.ただし,Airway scopeは高価であったためマッキントッシュ型喉頭鏡に置き換わるものにはならなかった.

一方,Covidien(Medtronic)が販売しているMcGRATHはマッキントッシュ型喉頭鏡の2倍程度の価格でありいずれマッキントッシュ型喉頭鏡に置き換わるものと思われる.

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[図5] McGRATHによる挿管

図5はマッキントッシュ型喉頭鏡とMcGRATHによる喉頭展開の様子を比較したものである.McGRATHでは直視では喉頭が視認できない状態でも画面上では喉頭が視認できている.このようにMcGRATHは挿管困難に対しても対応できるものである.

注意すべきはMcGRATHにとってのベストポジションは”スニッフィングポジション”とは限らないことである.また,通常の気管挿管ではスタイレットは”ホッケースティック”状にするのが良いが,McGRATHの場合にはMcGRATHのブレードに沿うようにもっと丸くした方が良い.道具によって”ベスト”は異なるのである.

4. CMACシステム

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[図6] CMACシステム(STORZ社のカタログより引用)

STORZ社はモニタースクリーンにビデオ喉頭鏡もしくは気管支ファイバースコープを接続して使用できるCMACシステムを販売している.このCMACの喉頭鏡には成人用のMacintoshのブレード#3,#4だけでなく新生児および小児用のMillerのブレード#0,#1もラインナップされている.従って成人だけでなく新生児や小児においても利用することが可能である.図7は実際に新生児にMiller#0のブレードを使用して挿管した時の喉頭の光景を録画したものである.左はMacintoch型を使用した時のように喉頭蓋を持ち上げていない時の画像であり,右はMiller型本来の使用方法で展開した時のものである.画像は非常に鮮明で,このシステムであれば指導医が画像を共有しながら確実に挿管されたかどうかを確認できると言う意味で有用である.おそらく挿管困難の症例においても他のビデオ喉頭鏡と同様にある程度まで対応できるものと考えられる.
このシステムの利点はモニターシステムが気管支ファイバースコープも接続できるようになっている点である.システムとして非常にコンパクトによくまとまっている.

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[図7] CMAC Miller#0での新生児の喉頭の光景