気管・気管支異物は0-2才の乳幼児に最も多く,気道管理に細心の注意が必要となる.原因となる異物についてはピーナッツなどの豆類の他,玩具の部品などが挙げられる.ピーナッツは油成分を多く含むため時間と共に気道粘膜に炎症や浮腫を生じさせるだけでなく,水分を吸ってもろくなり鉗子などで掴み出しにくくなるのが問題である.時に高齢者の気道異物の症例もある.薬剤のタブレットをそのまま吸い込んでしまった症例の経験もある.この症例の場合は硬性気管支 鏡下に鉗子でタブレットを気管支鏡の先端部まで誘導し,気管支鏡ごと取り出した.異物によっては容易に取り出せないものもあるため取り出し方を検討しておくことも重要である.
1. 気道異物の診断
診断の最大のポイントは気道異物を疑うことと,その上での病例の聴取であり,突然の発症であることや,その前後で気道異物になりそうなもので遊んでいな かったかなどを聞き出すことが重要である.胸部レントゲンも必ず撮影する.多くの気道異物は胸部レントゲンには写らないが,玩具の部品などは胸部レントゲンでも確認できることがある.ピーナッツのような異物の場合にはレントゲン写真上は異常を認めないことも多い.しかし肺の一部に透過性の高い部分があれば,その部分はcheck valve状態になっておりhyper inflationの状態にあることが示唆される.その領域の気管支内に異物が存在する可能性があると言える.同時にこのような症例では陽圧換気時にはhyper inflationがさらに進行し危機的な状況に陥る(最悪の場合心停止を来す)可能性があるため慎重に対応しなければならない.
2. 気道異物の治療
気道異物の治療は,気道から異物を取り除くことである.一般的には全身麻酔下に硬性気管支鏡を用いて,直視下に異物を取り出す.FOBを用いる方法もあるが,小児の場合には細径のFOBしか使用できず,通せる鉗子も限られる.操作中は気管チューブとFOBの隙間から換気することになり,換気が困難となることも多く,私はこの方法はあまりお奨めしない.
3. 気道異物の麻酔管理
気道異物の治療には非常に危険を伴うものである.操作中に換気ができなくなれば心停止から死に至る可能性もある.まず,術前にしっかり両親にそのことを理解して頂く必要がある.
準備しておくものは,通常の全身麻酔の準備に加え,FOB,硬性気管支鏡が必要である.麻酔器はできるだけ高流量のガスが流せるものを準備しておく.ジェットベンチレータを準備しておいてもよい.PCPS(もしくはECMO)に関しては,状況を判断した上で必要性が非常に高いと判断した場合に準備すればよいと考えている.
通常は緊急手術となるため,full stomachを想定しておく必要がある.可能であれば麻酔導入前に静脈路を確保しておくとよい.時間が許せるなら胃内容が無くなる最低限の時間をとってから麻酔に望むようにする.静脈路が確保できていれば急速導入も可能であるが,そうでなければセボフルランによる緩徐導入を行うことになる.気道内圧が高くなりすぎないように注意深く補助呼吸を行いながら調節呼吸まで持ち込む.自発呼吸のままで気管挿管するという方法もあるが,慎重に扱わなければ喉頭痙攣を起こす可能性もある.筋弛緩薬の使用には賛否があるが,私は必要最小限の筋弛緩薬は使う方がよいと考えている.この場合喉頭痙攣は起こさない.0.4mg/kg程度のロクロニウムであれば最悪の場合でもリバースできないことはない.
気管挿管の後,まずFOBで気道内を観察し異物の存在を確認する.異物の存在が確認できれば,硬性気管支鏡に挿管し直す.硬性気管支鏡は気管内チューブと異なり,直線的な金属の筒であるため,通常の気管内挿管の場合とは異なり,頭部を十分後屈した上で落としぎみの位置にしておかないとうまく気管内まで進めることが難しい.
硬性気管支鏡使用中は気管支鏡の横に作られている換気用ポートに麻酔回路を接続し換気する.硬性気管支鏡使用中は大量のエアリークがしばしば生じるため,状況に応じて高流量のガスを流して対応するようにする.また,換気がしばしば中断されることになるため常に100%酸素で換気するようにしておく.術者と麻酔科医の綿密な連携が必要であることは言うまでもない.
異物は鉗子を用いて掴み出すことになるが,時間の経過したピーナッツは脆くなっている上に周囲に炎症を生じているため容易に取り出せないことも多い.鉗子操作で砕けてしまった異物の破片は吸引で吸い出す方がよい場合もある.太い目の吸引用カテーテルの先端の側孔部分を切り落として使用すると効率よく異物を吸い出すことが可能である.玩具の部品のような硬いものの場合にはその突起部分に注意しておく.鉗子操作をうまく行わないと気管や気管支の損傷を起こす可能性がある.縫い針が異物となり,取り出すのに苦労した経験もある.また,ビーズ玉のように表面が円滑であるあるものは鉗子で掴みにくく取り出しに難渋したこともある.異物が判明した段階で,可能であればそれがどのようなものであったかを両親などに問い合わせ,その後取り出し方法を検討するようにするとよい.硬性気管支鏡での取り出しが困難であると判断された場合や,気道損傷の危険性が高いと判断されれば,PCPS下の開胸術を考慮する必要もあると考えている.
操作中に最も注意すべきことは異物の気管などの主要気道への嵌頓である.これによって換気困難に陥ることである.100%酸素で換気していればいくらか時間に余裕はあるものの早急な対処を要する.状況によっては異物を一度左右どちらかの気管支内まで押し込んでしまい,片肺のみでも換気を確保できれば最低限度の酸素化は可能であることを知っておくとよい.
異物をうまく取り除くことができれば処置は終了であるが,多くの場合操作中に伴い気道粘膜の浮腫などが生じてしまう.喉頭浮腫を抑制するためにステロイド剤の投与を考慮する(Evidenceかどうかは不明ですが).また,夜間の緊急手術であったような場合には翌朝まで挿管のまま管理し,体勢を整えてから抜管するとよい.