高頻度ジェット換気(HFJV)について

通常の換気は気道が閉回路であることが必要である.どこかに開放されている部分があれば陽圧換気をしようとしても漏れが生じて換気できない.気道がオープンであるような場合には高頻度ジェット換気(HFJV; highh frequency jet ventilation)による換気しか方法がない.もしくはPCPSなどの人工肺のある補助循環を行わなければならない.

1. 高頻度ジェット換気(HFJV)とは

HFJV
[図1] ジェットベンチレータ AS-25とJP-1(泉工医科機器)

ジェット換気は1967年にSandersによってventilation bronchoscopeの換気法として報告された.ジェット換気は細い管からガスをジェット流として吹き付けて酸素を肺胞まで送ると同時にベンチュリー効果によって管の壁周囲には逆向きのガスの流れが生じることで末梢側のガスを手前に送り出すことで二酸化炭素の排泄も行う換気方法であり,通常は開放気道での換気に用いられる.普通の陽圧換気にジェット換気を加えて使用する方法もあるが,回路全体が閉回路である状態でジェット換気する場合には肺の圧損傷が生じないように駆動圧に細心の注意を払って行う必要がある.筆者は開放気道の管理にしかジェット換気を用いていない.現在我が国で利用できるのは図1のジェットベンチレータJP-1のみである.JP-1は左側のAS-25の後継機であり,AS-25ではブレンダーが別になっていたが,JP-1では一体化されている.機能的にはほぼ同等である.

1-1. HFJVの適応

HFJVは開放気道で換気可能な唯一の方法である.従ってその適応は気管形成術や気管支形成術など,主要な下気道(気管,主気管支)の切除および再建時に有用な換気法である.また,スリーブ切除中に低酸素を来たした場合には酸素化を補助する方法としてHFJVは有用である.

また声帯ポリープなど喉頭微細手術(ラリンゴマイクロサージェリー)でも良好な視野が得られることから耳鼻科医からリクエストされることもある.筆者は,気管切開孔の形成や周囲の肉芽腫切除などで気管切開チューブの存在が手術の妨げになるような場合にもHFJVを使用してきた.

挿管困難症例で換気困難になった場合に輪状甲状靭帯穿刺をしてHFJVを行うという方法も成書には書かれているが,先に述べたように気道が閉じた状態でHFJVを行うと肺の圧損傷をきたす危険があるため,HFJVに熟練している医師でなければこの方法は推奨されない.むしろ声門に問題がない症例であれば,伊波らが報告したような咽頭に細い管を入れて,ここからHFJVを行う方が安全であると思われる.筆者はこの方法を試したことはないのでどのくらい有効かは不明であるが,伊波らは3例のCICV状態の患者において十分な酸素化が維持できたことを報告している.

1-2. HFJVの設定

筆者らはこれまで気管分岐部形成術や気管形成術にHFJVを使用して来たが,その設定はFIO2 1.0, 1-5 Hz, I:E=1:1として駆動圧は0.5 kgf/m2程度から徐々に上げて行き,胸郭の動き具合を見ながら1.5-2.5 kgf/m2程度の間で調整してきた.
実際のところ1-5 Hzの適当な振動数で大きな差はないと考えている.I:E比に関してはHFJVでは吸気と同時に呼気が生じるので通常の換気のように1:2にする必要はない.むしろ鈴木らの報告では1:1の方が二酸化炭素の除去は良くなるという結果であった.駆動圧に関しては高ければ酸素化が良くなるが,一方で圧損傷の危険性が高くなるため最低限の酸素化が得られる駆動圧で設定した方が良いと筆者は考えている.

HFJVは喉頭微細手術(ラリンゴマイクロサージェリー)にも有用な換気方法である.特に病変が披裂軟骨に近い部位(背側に近い部位)にある場合には細い気管チューブを使用しても通常の気管挿管による管理では良好な視野が得られず手術操作が行いにくい.このようなケースにはHFJVが有用である.HFJV用の10Fr程度のOTチューブが販売中止となっており,我々の施設では10-12Fr程度の気管内吸引チューブをHFJVのコネクタに接続してHFJVを行なっている.換気周波数は振動を少なくすることを考慮して1Hz程度にしているがそれ以外の設定は上記の設定を踏襲している.

分離肺換気で設定を調整しても適切な酸素化が得られない場合には患側(非換気側)にHFJVを適応してみると良い.この際には肺が膨張しすぎないように駆動圧を調整する必要がある.0.5 kgf/m2程度の駆動圧を目安にすると良い.

1-3. HFJVによる気管形成の手順

気管形成術では気管を切開して,病変部を切除し気管を端々吻合するまでの間にHFJVを行う.HFJV時には吸入麻酔薬を使用することはできないため,このような手術ではプロポフォールを用いたTIVAでの管理が適している.

  1. 病変部の遠位で気管を切開する.
  2. HFJVに慣れている場合には,この時点からHFJVを行う.以前はHFJVに適切なチューブが無かったため,14Frのサクションチューブの手元を斜めに切ってそこに三方活栓を接続しここにJP-1の接続ラインを繋いでいたが,現在ではCOOK社が販売している14Frチューブエクスチェンジャーを利用するのが良いと思われる.サクションチューブは柔らかいため切開した部位より末梢側の気管が短いとチューブ先端を良い位置に留置しておくことが難しいが,チューブエクスチェンジャーはある程度の硬さがあるため位置を固定しやすい.ただし14Frチューブエクスチェンジャーは100cmの長さがあるため気道抵抗は高くなり,結果としてworking pressureを高めに設定しないとチューブ先端から出る気流の速度が低下する傾向がある.
    HFJVに慣れていない場合にはここで一度遠位側の気管に術野挿管して通常の換気を続けておき,病変部を切除し,気管膜様部の縫合が終わった段階でHFJVを開始すると良い.遠位側の気管が短い場合には通常の気管チューブの術野挿管では片側挿管となってしまうため,カフ長の短いチューブを用意する必要がある.Rusch社のラリンゴフレックスチューブもしくは富士システムのスパイラルのロングチューブ(40cm)を使用すると良い.
  3. 気管の切除部が声門に近い場合には最初に挿管したチューブが吻合の邪魔になるため,この場合には一度抜管する.
  4. 気管の軟骨輪の縫合が終了した段階でHFJVを終了し,最初の気管チューブが残っている場合にはFOBで観察しながら気管チューブのカフが吻合部を超えるまで気管チューブを進める.一度抜管していた場合にはHFJVに使用していたチューブエクスチェンジャーを通して気管チューブを気管内まで誘導し,その後は上記と同じようにFOBで観察しながら気管チューブの位置を決めて,通常の換気を再開する.

1-4. 気管形成の術後管理

施設の方針でいくつかのオプションがある.切除距離が長い場合などにはしばらく深鎮静下で挿管のままマジックベッドで前屈位を保つようにする施設もあれば,抜管して管理する施設もある.MGHの麻酔の手引きには「顎から前胸部に太い縫合糸を掛けて頸部の前屈が保持されるようにする」と書かれているが,実際に行なっているところを見たことはない.
術後に分泌物が多いようであれば,ジャクソン式噴霧器を用いてしっかり表面麻酔を効かせてFOBで吸痰する.


参考文献

  1. Sanders RD. Two ventilating attachments for bronchoscopes. Del Med J 1967;39:170-5
  2. 伊波 寛,ら.咽頭内高頻度ジェット換気(咽頭内HFJV)による気道確保困難症例における緊急気道確保時の酸素化法.日臨麻会誌 2012;32(2):252-8
  3. 鈴木 朗子,ら.高頻度ジェット換気における駆動圧,吸気時間および吸入酸素濃度が動脈血ガス分析血に与える影響.日臨麻会誌 2005;25(7):652-6
  4. Hunter CBG, Alfille PH. Anesthesia for Thoracic Surgery. in Clinical Anesthesia Procedures of the Massachusetts General Hospital, 7th Edition, 2015, pp359-62