シングルルーメンチューブ(SLT)による分離肺換気

適応

SLTによる分離肺換気はDLTもBBも使用できない,もしくは使用しにくい場合の選択と考えて良い.SLTによる分離肺換気が最もよく行われるのは新生児や小児でBBも使いにくい場合である.食道閉鎖などの場合には食道の開口部が大きいと気管チューブやBBが食道方向に進んでしまうこともある.肺高血圧などがない場合には,FOBで左片側挿管を行なって分離換気を行なった方が安定すると考えている.CCAMなどで分離肺換気が必要な場合にはBBの方が良いだろう.

この他巨大な縦隔腫瘍などで左右いずれか一側の肺の換気を確保することを目的にこの方法が用いられることがある.この際には内径6 mmもしくは7 mm程度のロングチューブが有用である.富士システム社が販売しているラセン入りのロングチューブ(長さ 40cm)はこの目的に適している.細い気管チューブは通常長さも短く,気管支挿管に十分な長さがないこともあるため,このチューブが便利なのである.さらにこのチューブはカフの長さが1 cmと短いため気管分岐部に近い気管腫瘍の気管切除時などにも有用である.もし成人でSLTの気管支挿管による分離肺換気が必要な場合にはこのチューブを選択していただきたい.

SLTによる分離肺換気の注意点

気管支挿管を行なった場合には気管支ブロッカー(BB)と同様に患側の肺の分泌物や血液を吸引するすべはない.チューブを浅くして分離肺換気を終了する際に注意しなければこれらを健側に垂れ込ませることもあり得る.従ってそのような可能性のある場合にはこの方法を避けるか,もしくは少なくとも仰臥位に戻るまでは分離を続けて,仰臥位で観測をやや下にした状態で分離を解除するようにした方が良い.そして,分離解除後は患側肺を十分に膨らませると同時に十分な吸引を行うことである.もしも術中に患側肺を膨らませる必要に迫られた場合には,FOBを健側のチューブ先端に置いてからカフを虚脱させてたれ込みが生じてこないか慎重に観察しながらチューブを分岐部まで引き抜いて両肺換気をすることを推奨する.

SLTによる分離肺換気もBBの時と同様に右側の片側挿管による換気は右主気管支が短いため管理が難しい.Murphy孔の開いているカフ付きチューブであれば右側の分離肺換気をSLTで行うことも可能かもしれない.これは右主気管支の長さにも依存する問題である.