気道系の解剖

日本人成人の気管の長さは12-3 cmであり直径は男性で平均18 mm, 女性で15 mm程度である.気管径は平均で欧米人よりも2 mm程細い.気管径と左右主気管支径とはよく相関しており(r=0.77程度),気管内チューブのサイズを選択する際には気管径を元に選択すればよい.
右肺は上葉(B1,2,3)・中葉(B4,5)・下葉(B6,7,8,9,10)の3葉に分かれており合計10区,左肺は上葉(B1+2,3,4,5)・下葉 (B6,8,9,10)の2葉に分かれており合計9区ある.左には心臓があるためB7は通常存在しない.

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[図1] 左主気管支長の分布

レントゲン計測80例のデータでは右主気管支長は男性で平均13.6 mm女性で11.7 mmであるのに対し左主気管支長は男性で44.9 mm, 女性で40.5 mmと左の方が圧倒的に長い.図1は左主気管支長の分布である.左主気管支長は最低でも30 mmあり,通常の左用ダブルルーメンチューブが適用できないと考えられる症例は無かった.

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[図2] 右主気管支長の分布

 

一方右主気管支長は16例で10 mm未満であり,Benumofの定義ではこの20%の症例には右用Bronchocathが適用できない事になる.1例では後述するtracheal bronchusであった.日本人の右主気管支長は欧米人よりも平均で5 mm程度短くこのことが右用Bronchocathを一層使いにくいものとしている.なお熟練した麻酔科医であれば右主気管支長が 5mmまでは右用Bronchocathを使うことが可能であるが,酢腰のズレで分離肺換気がうまくいかなくなる危険性がある.細心の注意を払った管理を必要とする.
また,成人では気管分岐部での分岐角は右が25度に対し左が45度程度である.気管内チューブを深く進めると多くの場合右気管支に先端が進入するのはこういった理由による.

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[図3] 3D-CTで確認されたtracheal bronchus

気管支の分岐様式は症例ごとに異なっており,特に右側ではanomalyが多い.全ての分岐が典型的であるようなケースは稀であり,どこかに頻度の低い分岐があると言っても良い.anomalyの中でも右上葉気管支が気管から直接分岐するtracheal bronchusは分離肺換気時に思わぬトラブルを起こす原因ともなるが,頻度としては50例に1例程度といわれている.心奇形を有する症例では気道系のanomalyも多く注意が必要である.基本的な解剖に加えてこのようなanomalyについても知っておかなければならない.これらの解剖学的構造を正確に評価するためには術前の胸部レントゲン写真,CT画像を正しく読み取ることが大切である.胸部レントゲン写真では気管のシルエットは容易に確認できるが,主要気管支については必ずしも確認することは容易でない.従って気管支の分岐様式などについてはCT画像の読影が大切となる.近年では3D-CTも普及しており気管・気管支の3D構築像を見れば図1のようにanomalyの存在を確認しやすい.

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[図2] Tracheal bronchusの分類

Conacherは図4のようにTracheal bronchusを3つのタイプに分類している.タイプIはまず上葉気管支とそれ以外で気管分岐部のような構造を作り,さらに末梢で右中間気管支幹と左主気管支が再び気管分岐部のような構造を作るものである.最初の分岐の左側は気管支構造となり元の気管より細くなっている.タイプIIは気管の途中から右上葉支が分岐するもので分岐後の末梢側も気管構造を取っている点がタイプIと異なる.タイプIIIはタイプIIに近いが,気管分岐部が3分岐になっているものである.図3の画像はタイプIIIである.

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[図3] 気管径と気管支径

 

一般に気管径と気管支径にはかなり高い相関がある.図3左は気管径と左主気管支径の関係を示したものであり,図3右は気管径と右主気管支径の関係を示したものである.左右ともr=0.77という相関係数となっている.ダブルルーメンチューブの項で説明しているようにこの事を踏まえれば気管径を基準にチューブサイズを決定してもほとんど問題とならない.