肺瘻,気管支瘻,気管食道瘻や外傷による気管断裂,手術によって気管や気管支の切除および再吻合が必要な場合など声門以下の気道に外部と交通が生じる場合には通常の人工呼吸は行えなくなる可能性がある.大量のエアリークが生じる場合がそれである.
1. 開放気道への対応
開放しているのが気道のどの位置かによって戦略はある程度異なる.気管に開放部位がある場合には,うまく開放部位を超えて気管チューブを進めることができるなら大きな問題はない.もちろんこの場合でも損傷部位や切離した部位を修復する際には気管チューブが邪魔になることもある.一側の気管支に開放部位がある場合には対側にシングルルーメンチューブ(SLT)もしくはダブルルーメンチューブ(DLT)を挿入することで少なくとも一側の肺の換気は確保できる.もちろん肺に病変があり,片肺換気では酸素化が維持できない場合にはそれに応じた対応は必要である.
問題はむしろ麻酔導入から気管挿管に到るまでの対応である.マスク換気ができない可能性が高い場合には,自発呼吸を温存して覚醒下もしくは浅い鎮静下に表面麻酔を加えて気管挿管を行うのが最も安全である.挿管できることが確認されているのであれば迅速導入(rapid sequence induction)によって気管挿管し,FOBで観察しながら気管チューブを目的の位置まで進める方法もある.
気管や気管支の損傷部位を修復し,気管や気管支を再吻合する場合には高頻度ジェット換気(HFJV)が有用である.
新生児の食道閉鎖に関して
最も頻度の高いGross C型などのように下位食道が気管に開口している場合には,通常は局所麻酔下に胃瘻を増設してから全身麻酔を導入するのが一般的である.食道の開口部の大きさは症例によりまちまちであるが,これが大きな場合には気管挿管時に気管チューブが食道に迷入することもあるため注意が必要である.気管チューブが声門を超えたら,FOBで観察しながらチューブ先端が食道開口部を超えて気管分岐部直上近辺に位置するように進めると良い.食道開口部が気管分岐部のすぐ近傍であったり,主気管支入口部であった場合には気管チューブを左の片側挿管して左肺のみを換気することも考慮する.左に入れるのは食道閉鎖の手術は右胸腔で行われるからである.新生児期で肺血管抵抗が高い時期であれば肺高血圧が増悪し,場合によっては卵円孔を開始た右左シャントが生じて酸素化が悪化することもあるので,術前の病態把握は重要である.