麻酔科医に必要なファイバースコープ(FOB)の知識2

目次

I. 気管支ファイバースコープの操作

II. 気管支ファイバースコープを用いた観察
II-1. 喉頭
II-2. 気管
II-3. 右主気管支
II-4. 右上葉気管支
II-5. 中間気管支幹
II-6. 右中葉気管支
II-7. 右下葉気管支
II-8. 左主気管支
II-9. 左上葉気管支
II-10. 左下葉気管支

II-2. 気管の観察

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[図II-4] 気管分岐部と右第2分岐

気管の観察は気管の背側と腹側を正しく決定するところから始まる.気管の腹側には気管軟骨輪が存在するため横方向の模様が見えることになる.一方背側には気管膜様部があり,縦(吻尾方向)に線維が走っている.図II-4(a)は気管分岐部のFOB像であるが,左下方に縦方向に走る線維が認められるため,こちらが背側であることがわかる.また,両側の主気管支内には上方に気管軟骨輪が認められる.従ってこの写真では向かって右側が右主気管支であり,左側が左主気管支である.

II-3. 右主気管支

図II-4(b)の像は(a)の像と非常によく似ている.実際この写真だけを見せられた場合に,これらが気管・気管支のどの部分を写したものかを正確に言い当てられる医師は多くないと思われる.図II-4(b)は右の第2分岐すなわち右上葉気管支と右中間気管支幹の分岐部の像である.向かって右が膜様部であり,右上の気管支が右上葉気管支ということになる.この2つを見分けるにはやはり解剖学的知識が必要である.気管分岐部において右主気管支と左主気管支がそれぞれ体軸となす角度は左主気管支の方が大きく,左は側方へ曲がっている.従って気管分岐部直上から左右の主気管支を眺めた場合,右主気管支は底区まで見通すことができるが,左主気管支は奥には気管支側壁が見えるのみとなる.一方で右第2分岐では上葉気管支が側方へ出るため奥まで見通せず,逆に左側の中間気管支幹は奥まで見通せる.この2つの違いを理解していれば図II-4の2つを区別できるようになる.

II-4. 右上葉気管支

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[図II-5] 右上葉気管支と中間気管支幹

右上葉気管支には肺尖部に向かうB1と側方に向かうB2および前方に向かうB3の3つの区域気管支が存在する.図II-5(a)では,右側に膜様部が見えている.一般には膜様部が進入するのがB2であり,B2の時計廻りの位置にB3が,反時計廻りの位置にB1が位置する.右上葉気管支は3分岐が一般的ではあるが,区域気管支の分岐には変異が多く,まず2分岐してからすぐ先でさらに両方が2分岐する場合や4分岐のように見える場合など種々の分岐様式がある.いずれにしても右上葉の区域の分岐は気管分岐部とは明らかに異なる分岐形態である.

II-5. 右中間気管支幹

 右第2分岐の左側は中間気管支幹である.中間気管支幹へFOBを進めると図II-5(b)のような1列に並んだ3分岐の分岐が認められる.写真では膜様部は下方である.内側前方に分岐するのが右中葉気管支(図では左)であり,正面が右底区(B7-10)気管支,右側がB6区域気管支である.B6区域気管支は中葉気管支よりも近位から分岐する場合もあればさらに遠位で分岐する場合もある.

II-6. 右中葉気管支

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[図II-6] 右中葉および下葉気管支

右中葉気管支はB4とB5に分岐する.底区に近い方(図II-6(a)では右側)がB4であり他方がB5である.
 

II-7. 右下葉気管支

右下葉はまず中葉気管支と対側にB6区域気管支が分岐する.B6は背側に向かう気管支であるため仰臥位の場合には喀痰などにより閉塞しやすい部位である.図II-6(b)はB6であり亜区域気管支a,bが見えている.画面下方に底区域気管支との分岐部が見えている.B6の分岐の後,残りの底区域気管支からはB7およびB8,B9,B10が分岐する.図II-6(c)の下方に見えているのが内側方へ分岐するB7であり,右側の奥に1列に並んでB8,B9,B10となる.B8は前方に,B9は外側方に,B10は後方に向かう.図II-6(d)は前方(写真の上方)からB8, B9, B10である.なかにはB8が先に分岐し,その後B9とB10に分岐するといった場合もある.底区には時としてB8,B9,B10よりも手前に背側方向へ分岐する気管支が存在することがある.この気管支は(*)または副心臓枝と呼ばれる気管支である.

II-8. 左主気管支

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[図II-7] 左上葉および下葉気管支

次は,左の気管支である.左の主気管支長は平均43mm程度と長い.左第2分岐は右と異なり膜様部を下にして上下に分岐するようになっている.つまり腹側に上葉支が,背側に下葉支が並ぶ.右第2分岐が気管分岐部のように膜様部に対して左右に分岐するのとは対照的である.図II-7(a)では膜様部が下方であり,上方の気管支が左上葉気管支,下方が左下葉気管支である.これらの気管支はそれぞれ分岐後まもなくさらに2分岐するため,全体として4分岐しているように見えることもある.

II-9. 左上葉気管支

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[図II-8] 左区域気管支

図II-8(b)は左上葉気管支であり頭側(写真の左側)へ分岐するのが左上大区域気管支(B1+2とB3)であり,尾側へ分岐するのが舌区気管支(B4とB5)である.図II-8(a)は左上大区域気管支であるが,この写真ではB1+2とB3が右上葉気管支のように3分岐となっている.図II-8(b)は舌区気管支であり,左側にB4右側にB5が見えている.

II-10. 左下葉気管支

左下葉気管支はB6と底区域気管支のB8, B9, B10に分岐する.心臓が左に存在するため右側のように内側に分岐するB7は通常存在しない.背側に向かう(左側の写真では左側)気管支がB6(図II-7(c)の左側)であり,尾側に向かう気管支が底区域気管支(図II-7(c)の右側)である.図II-8(c)は底区域気管支であり,上が前方に向かうB8,中が外側方へ向かうB9, 下が背側に向かうB10である.この図では先に3分岐しているが場合によってはB8が分岐し,その後B9とB10に分かれる場合もある.