研究紹介04
これまで、内耳疾患であるメニエル病や自己免疫性難聴について、
その発生メカニズムと治療法の研究を行ってきました。
最近では、老人性難聴について研究を進めています。と言いますのは、人口老齢化に伴い老人性難聴患者の人口が増加しているにもかかわらず、いまの医療レベルでは有効な予防法や治療法が確立できていないからです。私はこれまで、動物実験レベルではありますが、免疫学的かつ分子生物学的手法を用いて、胸腺移植により難聴が予防でき、そこには特殊なリンパ球の遺伝子変化が関係していることを明らかにしました。
現在はこれを発展させ、一旦起こってしまった難聴を回復させ、治療する方法を研究中です。この研究は、難聴治療だけでなく、抗加齢対策への糸口になると考えています。
感音難聴について
感音難聴は内耳の蝸牛にある有毛細胞と末梢神経の障害に原因することが分かっています。さらに有毛細胞は一度、損傷すると自己再生しません。そこで我々はアメリカのミシガン大学クレスゲ聴覚研究所(http://medicine.umich.edu/dept/kresge-hearing-research-institute)と共同で有毛細胞および聴覚末梢神経の再生の研究を行なっています。
有毛細胞の周囲には支持細胞があり、加齢や薬剤、遺伝性により有毛細胞が消失した後も支持細胞は残存しています。そこでアデノウイルスベクターという遺伝子の運び屋を用いて、Atoh1遺伝子を細胞に導入することで、支持細胞が有毛細胞へと生まれ変わることを発見しました(図1、2)。また、同様にウイルスベクターでBDNF遺伝子を導入することで聴覚末梢神経の再生と保存に成功しています(図3)。
今後は、支持細胞だけでなくES細胞を用いたり、ウイルスベクターの代わりにsiRNA、GFI-1などの他の遺伝子などを使用したり、さらには臨床への応用についての研究を行なっていく予定です。